久しぶりに本を読んだ。
前々から気になっていたこの作品。
手習い指南所を開く浪人の父親、書が達者な母親の間に生まれた文平は、背が低く体も細いが、女のような顔で、元服前の十六才。そんな彼が二年前から、苦しい家計の足しにと始めた御探し物請負屋をしていた。彼がその商売を始めたのには、悲しい思い出があることが、後にわかる。
紙問屋の隠居から病で伏せる妻の文箱の探しを依頼された文平。
その妻が武家に奉公していたときに下賜された漆塗りで蒔絵が施された見事な文箱が、いつの間にか紛失した。時期も怪しい人物もわからない状態での探索に悩みながら歩いていて、ぶつかったのが若い武家二人。身なりがよく身分ある侍に見えた二人は旗本の次男三男のやっかいもの。一見華奢だが文武に秀でた哲哉と剣術では哲哉と同じ師範の腕を持つ山のような大男の岩五郎。
哲哉に聞かれて、人との約束で探し物をしていると答えた文平。その言葉のせいか、ならば手伝ってやると言い出した二人。役付きの旗本家の厄介者である二人は、ヒマをもて余していた。
そんな三人で始めた探し物。彼らを追い回す怪しい男たち、襲われたものの、腕に自信があったようだが、哲哉と岩五郎の相手では手もなく捕まってしまう。とはいえ、奉行所に引き渡されても口を割らない悪人たち。連日古道具屋を回っていたら、自分達以外にも、探し物をしていると言う連中がいることがわかる。そして、文箱を買った材木問屋の番頭が押し込みに殺されたと言う事件に関わる。材木の高騰で不正に儲けていた材木問屋たち、それをいさめていた番頭。そんな番頭が、不正の証拠をその文箱に封じ込めていたらしい。文箱はからくりで、二重底になっていたらしい。
無事に文箱を見つけた三人だが、からくりはもうひとつあり、そこには以来主の妻の過去の秘密の文が隠されていた。死が間近に迫った妻の心残りを見つけてやり、穏やかに死を迎えさせた三人の働き。

二つ目の探し物は奥庭にあった高価な盆栽の紛失事件。高い塀に囲まれた屋敷の奥庭にあった大きな盆栽が一夜にして紛失。怪しい人物が出入りした様子はないし、痕跡もない。手がかりはなく、盆栽を扱う植木屋を何軒も訪ね歩いていき、ようやく耳寄りな話にぶち当たる。似た盆栽を探していた植木屋がいると言う、しかも依頼主の屋敷に出入りしている植木屋、訪ねてみると、あっさり自供する。娘夫婦をなくし孫娘と暮らす植木屋。表の庭の手入れにいく際に、孫娘をつれていく。奥庭に迷い混んだ孫が粗相で盆栽を落とし破損。それを持ち帰った。
文平ら三人が付き添って、依頼主に謝りに行き、盆栽狂いの主に罵倒されるも、哲哉の知り合いから、似た盆栽を手に入れて渡すことで話がつく。
その代わりを提供してくれた旗本の主夫婦は、お礼にうかがった植木屋と孫娘を見て驚く。二年前に病で亡くした娘にそっくりだった。娘を奉公に出してはと言い出す。ゆくゆくは養女にするつもりか。それを予見した哲哉は主夫婦をいさめる。身代わりになるものなどこの世にはいないと。身代わりでは主も娘も幸福にはなれないと。
その主夫婦の亡き娘と、その死の間際まで一緒にいたのが文平だった。病身でわがままな娘の相手役として、一緒に勉学をして、恋人のような思い出を作ってやった文平。死に際の娘の頼みで、困ってる人を助けるために探し屋を始めた文平。

三番目の依頼は、芝居小屋で若衆姿の人形を演じている小人の長三郎からの頼みで、彼の実の両親を探してほしいと言うもの。幼児のときに、ある商家に拾われて養子になったものの、七歳の時に馬に蹴られたのがきっかけで、成長が止まり、片輪になってしまう。そのために自ら申し出て売ってもらう。その時に身の回りの世話役として、つけられた男が、いまの人形遣い。
実の両親の記憶はあまりないが、住んだところの断片的な記憶はある。江戸だったと思う、富士山が見え、鳥居を潜った岡を上ると大きな池があった。寺が多く、武家も多かった。守り袋は名前以外は破り捨てられていた。さらに、漆の小塊が入っていて、それには草花と長屋名が掘り混まれていた。父親は職人だったのか。
長三郎の記憶にある風景を求めて、江戸中を歩き回ることになる文平たち。
一方、同時に岩五郎は別の探し物もしていた。長らく疎遠だった乳母が元気がないときいて見舞いに訪れた岩五郎は、乳母の息子で岩五郎とは乳兄弟にあたる善次郎が、養子にいったまま音沙汰がないときいて、訪ねていく。紀州藩の付け家老となった水野家の用人の家に養子に入った善三郎。一目でいいから乳母にあってほしいと思っていただけだが。
屋敷を訪ねると、いついっても善三郎は留守で、何かを隠している様子。特別の任務で他国にいっているとも言う。
長三郎の父親と思われる漆職人の探索と、岩三郎の乳兄弟善三郎探索が、交わることになる。どうやら長三郎の両親である夫婦は隠密として市井に隠れ、漆職人になっていたらしい。親方が長三郎の父親らしいが決め手がない。やがて職人仕事に夢中になり、隠密稼業を抜けようとして、藩内のものに命を狙われた。妻は去り、仕事ができなくなった親方の代わりに仕事をしていた善三郎。親方が隠していたものを知っていると思われた善三郎は捕まったらしい。
探索の手を伸ばし、ついに半死半生の善三郎を見つけた文平ら三人だが、監禁して拷問していた侍に対峙することになる。なんといっても、相手はご三家家中のもの、旗本の厄介者では、戦いに勝っても、あとの始末が心配。そんなところに現れたのは、文平が看取った娘の父親である旗本。彼は紀州の水野家とは一族だった。娘を安らかに送り出してくれた文平のお返しにと、すべてを引き受けてくれた。公にしないで、秘密裏に処理するのだろう。なにはともあれ、岩五郎の乳兄弟善三郎は無事に生きて帰れた。長三郎には見つからなかったと報告し、以後も探すと希望を持たせる文平ら。

著者名に見覚えがあると思っていたら、以前読んだ北森鸛さんの遺作「邪馬台」の共同執筆者だった。公私ともに北森さんのパートナーだった時代小説作家。