著者はドイツ人の作家、ジャーナリスト。この作品は2013年に発表され、ドイツでベストセラーになり、さらに30あまりの国で翻訳され、各地でもベストセラーになったという。
言わば大人の恋愛小説とでもいえようか。
主人公は50才の書店主ジャン、セーヌ川に浮かべたはしけを改造した船に、8千冊の本を積み込み、店を開いている。彼が変わっているのは、人の声や話を聞くことで、相手の気分や魂が求めているものがわかるという特技を持っていること。本好きの彼は、それを利して、相手が今読むべき本を探し当てることができ、その本を勧めて買わせる。だから、相手に合わないと思ったら、金をつまれても売らない。いわば、本を介して悩みを癒す薬の処方をするような書店主。
独り暮らしの彼は相手への気遣いができることにより、周囲の人たちに好かれている。
そんなある日、同じアパートに夫に捨てられて、何も持たずに引っ越してきた女性カトリーヌがやって来る。大家の女性にテーブルを貸してやってくれと言われ、思い出したのが、今は封印した部屋にある白いテーブル。迷いながらも封印をとき、取り出したテーブル。それと共に、心の中でも封印していた恋人マノンの思い出が湧き出してくる。
20年前、5年間同棲していたマノンは突然出ていき、理由も告げなかった。絶望にとらわれ、思いでのある家具を破壊した記憶があるジャン。以後、彼女を忘れようと、人との個人的な関わりを拒絶し、書店主としてしか関わってこなかったジャン。
カトリーヌに貸したテーブルの引き出しの中から、マノンからの手紙を見つけたカトリーヌ。はじめは受け取って以来封を開けていない手紙を受けとることを拒むものの、気になりかけていたカトリーヌに勧められて、手紙を受け取り、読んでみた。
そこに書かれていたのは、故郷で待つ婚約者とジャンとの間で揺れ動く彼女の気持ち、苦悩。そして、死病におかされたこと、どうせ死ぬのなら故郷で死にたいと出ていったと。ジャンを苦しませないために、何も話せなかったと。
てっきり彼女に捨てられたんだと、恨んで忘れようとしてきたジャンは、彼女の気持ちを知り、後悔する。あれから20年、彼女はもうこの世にはいないだろう。今さら後悔しても遅いがいたたまれない。
そんなきっかけで、ジャンは一大決心をする。マノンの故郷へ行かねばならない、と。セーヌ川岸に係留していた舟を、なん十年ぶりかで動かす。
ちょうどその時、最近知り合った若い作家マックスが現れ、同乗を求める。デビュー作で売れっ子になったものの、スランプに落ちていたマックスは逃げ出したかった。
こうして、ジャンとマックス、そして2匹の猫を乗せた船は、フランスの川を南下することになる。
その途中、二人は新たな友を見つけたり、さまざまな夫婦や思いでの恋に出会っていく。
南フランスまでたどり着いたものの、マノンの顔がデザインされたワインの瓶を見つけたとたん、マノンの家にいくのに躊躇してしまったジャンは、友と別れ、一人海辺の町で書店に勤めながら独り暮らしを始める。
そこで、マノンの思い出と向き合い、癒していくのと平行して、ジャンはカトリーヌを新たな人生の同伴者として意識し、心を固めていく。カトリーヌをパリから呼び出して再会したときに、ようやく過去の亡霊から抜け出せた。そして、マノンの故郷へいく決心ができる。
一時その近くにいったときに、今では息子のように思えるマックスが、その地を気に入って住み込んでいた。トラクターを乗り回す男勝りの女性が気になったのも理由だが。
マノンは故郷に戻り、婚約者と結婚し、娘を生んで、亡くなっていた。娘を生むために、抗がん剤治療を拒否し、苦しみに耐えて、死んでいた。
今は再婚してるマノンの夫だった男リュックとあったジャンは、マノンの死の間際の様子を聞かされ、彼女が残した日記を見せられた。
彼女の気持ちを知り、後悔にさいなまれるジャンは、彼女の墓場に参るが、彼女がそこに眠っているとは思えなかった。折しも夕焼けとなり、丘の上の墓場に満ちる光を浴びたジャンは、マノンはここにいると思えた。光と風になって、故郷を漂っているのだと。
マックスが恋した女性ビクトリアは、マノンの娘だった。マノンに瓜二つ。ジャンが息子のように思っていたマックスと、マノンが命と引き換えに生んだ娘ビクトリアが、結婚することで、ジャンとマノンの気持ちが再び交わったようにも思える。

書物の処方というのも、読書好きには魅力的なことだが、やはり恋愛というものが一番身にこたえる気がする。
なんにせよ、素晴らしい作品だと思う。

主人公の文学処方せんとして、巻末には、25冊の本が提示され、それぞれに、どんな病に有効かが述べられている。
軽度から中程度の感情のカタストローフに素早く効く精神と心の薬と書かれている。