ライトノベル風の作品の作家として、其の名は知っていたが、はじめての作家。読んでみたら、面白い。個性的な登場人物、ユーモアのあるストーリー。
父親の転勤で学校をいくつも転校してきた主人公、矢口弼タスク。背はあるが眼鏡をかけて口下手な彼は、転校する度に、いじめに遇うのを恐れていた。さいわい、頭はよかった。それだけで、一目おかれる。さらに頼まれるままに、クラスの子に勉強を教えた矢口。彼にとって一番思い出のあるのは、大田区の雨森中学校。神奈川よりの閑静な住宅地にある学校。中学1年の2学期に転校してきた矢口。朝礼で挨拶をした直後に、いきなりスイカのビーチボールを顔面に投げつけられて、鼻血を出してしまう。以来、あだ名になった。投げた本人は悪気はない。
そんな彼が20数年ぶりに、その町に引っ越してきた。下宿先に行く前に泊まったホテルで、長く伸ばしていた小指の爪で、鼻血を出し、坊主頭で大柄なおっかなさそうな男に血止めをしてもらう。
下宿先にいってみると、大家さんの経営していた1階の喫茶店は孫があとを引き継いでいた。コーヒーと昆布茶に、トーストしかない、こじんまりした店。店にいるのは、長身でイケメン、矢口より一回りは若い男。表にある。おはなしききます、という文句通り、女子高生の話を聞いている。聞き上手。女子高生はストーカーめいた男に気がある様子で、気が気でなくなる矢口。つい言葉をはさんで、男に頭を絞められて鼻血を出す。
喫茶店の常連で、近所に一人暮らしする老女に近づいてくる若い男。話を聞いてヤバイと思い、店主に言われて、夕食誘ったという老女のもとへいった矢口。
やばくなりそうなときに現れたのは、店主の知り合いだという男。ホテルで血止めをしてくれた男だった。またしても鼻血。
早く鍵を持って部屋に生きたい矢口は店主と謎の男が喫茶店に押し止める。なんと彼らは昔の同級生だった。スイカを投げた小柄なやつがイケメンに、その後ろい控えていた小男がいじょうぶな男に変身した。店主は小日向、いじょうぶは邑。祖母のあとをついで喫茶店の店主になり、近所の老人たちの憩いの場をもうけ、人の話を聞いてやる小日向。あとでわかるが、祖父のあとをついで坊主になった邑。
矢口は両親の離婚で、母方の姓になったが、彼らにとっては、昔通り、矢口。税理士をしていたが、不正を嫌うことから、客ともめてやめ、今は塾の講師。3人とも独身で子供もいない。邑は寺で子供を集めてボランティアの塾、寺子屋を開いている。偶然訪れた、その塾の子、竜王の質問に答えて、矢口の優秀さがわかる。でも、嗄れには別の悩みがあり、小日向が聞いてみると、父親が殺人犯であることに悩んでいる。竜王の父親は、医者だが、彼も昔の同級生だった。
会って、詳しいことを聞いてみると、昔の担任だった女性教師が数年前に事故死していた。自殺の噂もあり、それを見殺しにしたのは生徒たちだという、告発のメモ書きがいくつか、同級生のもとへ送られていた。
それを送ったのは、今は施設にいる先生の母親。心も落ち着いてから、亡き先生の遺品の整理をしていて見つけた日記。そこに、自殺を思わせる記事があった。
話を聞いた小日向と矢口は遺族のために、先生の死の真相、自殺か事故死か、原因となった先生を追い詰めた脅迫者の特定をするために、動くことになる。いまだ子供の純真さを留める小日向と、大人となった矢口の珍妙な掛け合いや行動が、結構面白い。
父親の部屋で見つけた先生手書きの恋歌の束。不倫を疑い、両親の仲をさかれることを恐れた少女の、先生へのいやがらせ。それに気づいて、きっぱり断念すると言った先生に、自殺の思いはなかったはず。最後にわかった先生の思慕の相手とは、なんと…。