読んでみたら予想外の展開だった。
最初の章タイトルが、2002年麻布。高校2年17才の麻布の語りで始まった江の島で民宿半分亭の物語。そこの娘は代々野良猫が多い江の島で、ねこもりと呼ばれる世話役を勤めてきた。人見知りで満足に人と話せない麻布だが、猫には好かれ、彼女の回りにはボスねこのトラをはじめとした猫たちが集まり、えさをもらったり、難産の時の立ち会いをしていた。
そんないかにも平和に見えた麻布の生活が一変する出来事が起こる。婿入りしてきた彼女の父親はだまされたり、怪しい話に口をはさんで、家族だけでなく、近所にも世話をかけてきた。
そんな父が莫大な借金を抱え、やくざに返済を迫られたということで、ある日突然に夜逃げすることになる。民宿の主である祖父も文句も言わずに従うと知り、驚く麻布。後で実は借金をかかえこんだのが祖父だとわかる。彼のモットーは半分亭は客と猫のおかげで、代々店を続けてこれたのだと。つまり馴染みの客が借金を抱えて自殺しに来たのに出くわした祖父が、その客を密かに逃してやり、借金を抱え込んだのだとわかる。それを知ると、口うるさい娘であり、麻布の母である溶子も納得し、家族一緒に夜逃げすることになる。本土に通じる橋にはやくざが見張っているので、知り合いの船を借り、海へと夜逃げすることになる。
第二章では、1915年すみゑ、となり、いまはなき麻布の曾祖母の少女時代に話は飛ぶ。ねこもりになる直前の曾祖母は、江の島に遊びに来た洋装の少女と猫をきっかけに知り合い、友達となる。紆余曲折があり、最後に別れるときに、曾祖母は高価な珊瑚の飾りを預かる。いつか江の島を訪ねてくるまでと。
第三章は、1963年筆。
麻布の祖母筆の物語。アラフォーで独身だった筆が、駐在所の警官だった6才年下の、麻布の祖父と結婚するまでの顛末が描かれる。
第四章は、1988年溶子。麻布の母である溶子が、できちゃった婚で、娘の麻布を得た後にも、年来の夢だった江の島を飛び出して都会で暮らす夢を得ようとあがきながらも、結局は諦めるまでの顛末が描かれる。
第五章は、2017年麻布。
30代になった麻布が生まれて間もない娘を連れて、長年気になっていた江の島を訪れる。どうやら麻布一家は夜逃げして、父の故郷である宮城県の島に住み込み、借金返済のために働いているらしい。勝手に外人と結婚したものの娘を生んでから離婚した麻布。娘を連れて、江の島の自宅を訪れてびっくり。昔と同じ建物がそっくり残っている上に、民宿をかねた食堂、半分亭の名が同じように残っていた。なかに入ってみると、内装は変わっていたが、祖父が作っていた名物料理と同じ料理を食べて、びっくり。祖父にまで伝えられた味が残っていた。
自分の素性を打ち明け、聞いてみると。
現在の主である料理人の若者は、曾祖母が再会を待ち望んでいた友達のひ孫だった。その友達は吉原の遊女になったので、関東大震災でなくなったと考えていた曾祖母。それでも、再会を期待して、預かったものを子孫に伝えてきた。それがようやく、その子孫に渡されることになる。
遊女だった女性は、震災を機に逃げ出し、一人懸命に生き、晩年には家族にも恵まれたという。現在の主と、占い師で成功したその母が、曾祖母が預けたものを受け取りに江の島に来たのは、麻布たち一家が夜逃げした後だった。売りに出ていた店を買い取り、新たな店を続けていた。夜逃げした店に残されていた、名物料理のレシピ、それを参考に作っていたのだった。
シングルマザーとなり、将来を決めかねていた麻布は、主と母親に乞われて、店で働くことになる。ねこもりだった麻布は再び猫たちに再会し、ねこもりとして江の島で暮らすことを決意する。