筆跡鑑定ができる図子が開く探偵事務所は客もなく、暇な事務所。そこの助手となったのは大学に入ったばかりの真子。下宿を探していて、とあるマンションを見つけ、大家である老女に会った。孫の探偵事務所で働いてくれるなら、家賃は半額で、報酬も出ると聞き、飛び付いた。
しかし、図子は二十代後半の若者なのに、身なりもやぼったく、やる気もない様子。高校の同級生で、近所でカフェ~を開く東が時々差し入れをしてくれる。イケメンで女性客に人気な東だが、実はオカマで、図子に惚れている。
大家である祖母は資産家で、亡き祖父の知り合いだったやくざものが彼女のそばに控えている。事務所の家賃はただで、食べるものは近所の商店街の人たちが何かと差し入れてくれる。だから何もしなくても生きていける。
彼は高校時代優等生で、特進クラスにいた。そして見事東大に合格して、入学式までは出たものの、以後退学してしまう。それは高校時代に付き合っていた彼女が自殺してしまい、理由がわからず悩んだから。自宅に残されていた図子が書いた笑うな、という額を事務所に飾り、死んだ彼女が自分の机の中に残していた、ごめんなさい、の言葉を繰り返し考えていた。
そんなやる気のない探偵事務所に依頼客がある。近所で最近繰り返されるいたずら書きの犯人探し。得意の筆跡鑑定で、犯人をプロファイリングして、次の犯行現場を予想して、助手のか弱い女子真子に、夜の張り込みをさせる。時に、オカマの東を寄越す。イケメンだが、その境遇からいじめを受けやすい東は意外と格闘技にもすぐれ、3人の男にさらわれそうになった真子を助けてくれる。
落書き犯はなんと図子高校の後輩とわかり、そいつを追いかけ回して、ついに自供に持ち込む。進学校の特進クラスだった犯人は言い逃れも巧みで、最初はなかなか犯行を認めず苦労したが、結局自白に持ち込み、犯人は自首する。
ついで持ち込まれた依頼は、またも図子の後輩の自殺事件。特進クラスで自殺した生徒が隠していた日記が見つかり、いじめが発覚。首謀者としてかかれた生徒が社会からバッシングを受け、彼もまた自殺。その彼が母親宛に残したことばは、あ、の一文字。果たしてそれは何を意味するのか、知りたがる母親の依頼を図子は引き受ける。
進学校のエリートが集められた特進クラスに、秘められた小社会としての掟、規律。服装や言葉遣いを決められている。誰も明かそうとしない秘密とヒエラルキーを少しづつ明らかにしていく図子は、その大本にいた女子高生から、意外な告白を聞くことになる。そしてそれは、そのまま、自殺した10年前の図子の彼女にも当てはまることだった。彼女の秘密に今になって気づいた図子、それに気づいて助けてやれなかったことを悔いる図子。
もともとは、自殺した彼女の秘密を知りたいと始めた探偵業。今となってはもう無用と、廃業をほのめかす図子をせき立てて、仕事をさせようとする真子。
もう少し軽いミステリーだと思ったが、意外と読みごたえがあり、考えさせられた。青春ミステリーの騎手と言われる山下作品をもう少し読んでみたくなった。