久しぶりに一冊読了。
北関東の紅雲町で、土蔵を改装したコーヒー豆と和食器を展示販売する草の店。
今回の話は、秋のある日に草が半世紀前の旧友に出会ったことから始まる。
戦後間もない頃、まだ未婚の若い草は、町の芸術家集団の仲間と一緒にいた。その一人から突然送られてきた絵巻物。町の川をそぞろ歩く父子が目にする風景を描いた初之輔が書いた短編小説。それを絵にした絵巻物。その一つが草に送られ、もうひとつが、草のコーヒーの師匠であり、隣町でレストランを開いているバクサンのもとに届く。バクサンも若い頃小説家志望で仲間の一人だった。
それが縁で、意外にも同じ北関東に住んでいる初之輔と再会する草とバクサン。
思いでの地をめぐり、旧交を暖めた三人。初之輔が帰ったあと、バクサンが取り出した同人誌に掲載された初之輔の小説。うまい小説だった。
それなら、自費出版の本にしようと思い付いた草。草の両親の頃から付き合いがあった印刷屋に相談する草。
そこで、草は見てはいけないものを見てしまう。今は大会社アルファ印刷会社の下請けになっていた萬来印刷。アルファの個人情報漏洩の犯人として疑われている萬来印刷。萬来で働く風来坊の職人小林。彼が、現在のアルファ印刷社長の姉婿だった。そして、小林の嫁は自殺したと言われていて、そのことで小林とアルファの関係がぎくしゃくしてる。
好奇心旺盛の草は、小林の妻の自殺に疑問を抱く。なぜ馴染みがないビルに上ったのか?
草の店に出入りして、活版印刷の魅力を教えてくれた若い女客、それが自費出版を思い付くきっかけになったのだが。彼女が自殺した小林の妻が残した娘で、萬来の社長とは幼馴染みで、近いうちに萬来に就職すると知る。
小林の妻の自殺の真相に気づいた草は、今さら荒立てることは不要だと口をつぐむも、アルファ印刷の社長に見破られてしまう。姉の最後の直前の姿を見ていた事故現場近くの花屋の主が、社長に話したらしい。自殺する気などなかった姉。
今回は草の店の手伝いをしている体育会系の従業員久実の恋愛も語られる。萬来の社長と、教師との見合い。
仲間の一人と結婚し、その実家のある秋田にとついだ草だが、縁なくて離婚、置いてきた息子も亡くした。そんな草を鈍感だとなじった、当時の仲間で、初之輔と付き合っていた女性。初之輔がほんとに好きだったのは、実は草だったと。
半世紀前の若い草の青春を垣間見せた今回の話。
なかなか興味深いものだった。