村山さんの作品ではお馴染みの架空の町風早。今回はその町にあった百貨店が描かれている。第二次大戦により焦土となった町、その一角に孤児となった子供や生き残った大人により再建された商店街。そして、そのシンボルとも言える百貨店ができた。二度と戦争による悲しみを引き起こさないようにと、設立された店はお客様である町の人々の幸福と繁栄を願う店だった。商店街の中にあり、庶民的な、子供でも自由に出入りできる店。この町で成長したものも子供時代だけを過ごしたものも、懐かしく感じられる昭和時代の百貨店。
時代の流れで、かつて繁栄した百貨店は今、衰亡しつつある。
風早百貨店も同じ。創業者である先代の社長が病に倒れ、後をついだ息子の現社長には危機管理ができない凡庸な人。二度の結婚も共に破れ、妻子は家を出て、跡継ぎもいない。そんな地方都市の百貨店に協力を申し出た大百貨店の傘下に入って延命していたものの、事業改善のために提案されたリストラやテナントの見直しに耳を貸さなかった風早百貨店は、大百貨店の協力も打ち切られ、いつ倒産してもおかしくない状態だった。
そんな店に新たにコンシェルジュが置かれることになり、赴任してきた若い女性結子。彼女のプライベートは一切わからないものの、仕事熱心で、誰にも取り入ってしまう魅惑的な結子。古くから伝説が生まれてきた風早。それはこの店にもあった。ステンドグラスに店のシンボルの花と共に描かれている子猫。その猫がそこから抜け出して、店内をうろついているという。それを目撃したものは、ひとつだけ願い事が叶うという。
結子も実は少女時代にその猫を目撃していた。祖父の作った百貨店を受け継ごうと願った。

店で働くものを主人公にした話で幕が構成されている。第一幕に登場するのは、エレベーターガールのいさな。百貨店には彼女たちが操作する手動式のエレベーターがある。三方がシースルーのエレベータに乗ると、店のなかもそとの町も一望できる。まるで空を飛んでいるような気にさせるエレベーターに毎日乗るいさな。乗ってきた子供に魔法を使う猫のことを聞かれて戸惑う新米のいさな。あとで、同僚たちから有名な猫のことを教えられる。
風早の姉妹都市である北欧の町から訪れた素人楽団の一人の悩みに関わったいさな。そして偶然に出会った結子。

第二幕の主人公は、地下にある靴店の主咲子。高校時代に友人とバンドを組み、ヒットした曲がある咲子は、百貨店への出店に意欲を燃やしていた母の死と父親の病で、バンド活動を諦め、靴店をついだ。そんな靴店に来た結子の足を見た咲子はいびつな足だった。後にそれはバレーダンサーによく見られる変形した足だと気づく。そして、閉店後の階段で泣いていた結子を見たことがある。聞いてみると、長いこと無沙汰していた祖父が重い病で、何もしてやれないことを嘆いていたのだと。
バンド解散を決めての最後のコンサートについに行かなかったこと後悔する咲子は伝説の猫を見たことで、いけなかったコンサートに行き、仲間と歌う夢を見た。

第三幕の主人公は、六階の時計と宝飾品のフロアマネージャーである佐藤。母子家庭でそだった彼は幼い頃、母に連れられてこの店によく来ていた。そして、屋上の遊園地で母に置き去りにされた。その後、東北にすむ祖父母に育てられ、成人となってから風早に戻った。
あの猫を見た彼は自分の願いにはじめて気がつく。捨てられた母と再会することを願っていたのだと。だから思いでの場所であるこの店に就職した。来年五十周年を迎える百貨店。広報部は過去の資料を漁っているうちに、佐藤と母親が写っている写真に気づく。それと同時に遠隔の病院から知らせが届く。身寄りもなく入院した老婆が佐藤の名前と百貨店の名を書いたメモを持っていたと。こうして、佐藤は母と再会し、家族と引き合わせることができた。

第四幕の主人公は、資料室に勤める一花。百貨店だけでなく、風早の郷土資料室でもある。風早を描いた絵や写真、思い出を綴ったものがおかれていて、希望者は誰もが閲覧できる。
イラストレーターに憧れた一花は、高校生の頃あるコンクールで佳作をとったことがある。大賞を得た作品にひかれると共に、とても太刀打ちできないと、その道に進むことをあきらめた一花。その大賞受賞者で、その後有名になった画家トリネコが、なんと彼女の勤務する資料室を訪れた。しかも、佳作をとった一花の絵をほめてくれた。これも偶然見かけた伝説のねこの仕業か。花火大会のデートをすることになった一花は、長年自信がなかった化粧に挑むことに。一階のコスメフロアの魔法使いに、コンシェルジュの結子と赴いた一花。雨で残念なデートにはなったが、楽しい時間を持った。
一方、コスメの魔女は昔の親友を思い出していた。同じ職場にいて、見初められて社長の奥さんになりながらも、夫の浮気で離婚し、娘と共に出ていった。その娘の面影が結子にある気がした。

幕間に登場するのは、死期の迫った創業者である結子の祖父。思い出を回想する。

終幕に登場するのは、百貨店のドアマン西原。誰よりも早く持ち場につく彼よりも早く、店内にいる、新入りのコンシェルジュの結子に注目する。百貨店の創業者と幼馴染みで、経営にも助言してきた大株主で女帝と呼ばれるまり子様に可愛がられている結子。噂のように精霊だとは思わないが、魔法が使えるのではと思ってしまう。五十周年を記念して、古参の社員に思出話を聞き、冊子にまとめる企画が出ている。結子も偶然同席した場所で彼が話した思いでの若い客。その客夫婦が定年後をすごそうと風早に戻り、思いでの百貨店を、コンシェルジュの案内で見学することになる。古参の店員は誰もが二人を覚えていた。医学生の妻と大学生の夫。離島での医者と建設会社勤務で単身世界を飛び回った夫が、定年してはじめて、夫婦水入らずの生活を始めようとしていた。そんな二人を密かに見守っている店員たち。彼らに夫婦は気づいているかどうか。
ラストに登場する少年は死期の迫った創業者なのか。孫娘の店の理念を守り続けるという言葉に喜び、いさなのエレベーターにも乗る。屋上につくと姿が見えなくなり、代わりに猫が登場する。

ファンタジーといえる話だが、心暖まる作品だった。