主人公の萌は手ならいの師匠。両親が始めた手ならい銀杏堂の今は塾長。後家人の家に嫁いだものの、子ができず、3年で離縁され、戻ってきた。女子の相手は後家人の家の出の母親がして、男子は学問好きな商家の出の父親が担当していた。その父の助手を勤めていた萌。彼女がなれた頃に、父は諸国の学問仲間に会いたいと旅に出てしまい、後を引き継いで男子を教える萌。若い女の先生では不安だと、手ならい所をやめた子もいるし、萌を侮って反抗的な子もいる。
小日向は、武家地、農家、商家、そして寺が入り交じった地域。そのせいで、通う子も様々。侍の子、農家の子、職人の子、商人の子などが、机を並べる。徳川幕府ができる前からあると言われる、樹齢何百年の銀杏の大木が門前に立つ。いつからか、実のなることはなく、臭い匂いには無縁で、見事に色づいた黄金色が目を楽しませてくれる。この木を何かと見上げるのが萌は好きだった。
実は萌はこの木の下に捨てられていた。長年子に恵まれなかった両親が引き取り養女にした。

師匠としての自信がなく、子供たちとの関わりに、苦労する萌。子供たちの家の事情は様々で、毎日きちんと通える子だけでもない。また子供にはそれぞれ個性があり、みんなと同じように学べる子供ばかりではない。
父が旅立つ前に、困ったときは当てにしろと言ってくれた、飲んべえの手ならい師匠椎葉。ただの飲んべえだと思っていた萌だが、自身の教え子のことで相談に行き、新たな面を見いだす。彼の手ならい所に通う子は、他の手ならい所を追い出されたものばかりを集めて、普通の学問ではなくて、各自がしたいと思うことをやらせている。字は読めるのに書けない子は、耳で聞いたことを忘れないことから、オランダ語の単語を節をつけて、終日唱えている。一日絵を描く子もいるし、無味乾燥な読本には見向きもせず、自分で物語を書いている子、手先が器用なことから、木の彫刻をしてる子などという、変わった子ばかりを集めている椎葉。普通は世に出てから困らないようにと、基礎的な学問を教えるのだが、そこから落ちこぼれ、自信をなくした子らに、好きなことを遊び半分でやらせることで、自信を植え付けようとする椎葉。

手ならい所に赤ん坊が捨てられていた。まるでかつての自身を見る気がした萌は、その子を引き取ると言い出す。かつて母が自分にしてくれたことを、赤ん坊にしてやりたいと願った萌。
赤ん坊の成長と共に、母親としての自覚も生まれてくる萌。ラストには、生みの母親が現れたり、さらわれる事件が起きる。不義の子を里子に出した武家の妻女。里親は礼金目当てで引き取り、赤ん坊をよそへ回す。二人目の里親が手ならい所に捨てた。その処遇を罰せられると聞いて、ものを話し始めた子供をさらった里親。生みの母と共に引き取りにいった萌。自分になつき、しがみつく子を抱きながら、萌は自分が母親だと自覚する。
下山間近な子の将来への不安、若くして急死した父の代わりに働くために手ならいをやめようとする少年、様々な事情を抱えた子供たちをみまもり、親身になって寄り添う萌。
若い先生の成長記であるとともに、懸命にいきようとする子供たちを描いた、心暖まる作品だった。