奥野夏樹は、西日本のとある町にきて、額装店を開いた。手作りで、飾るものにふさわしいデザインと素材を吟味して、オーダーメイドの額を作る。東京で一緒に学んだ婚約者を5年前に事故でなくし、その仕事を受け継いだ気になっていた。
彼氏の事故死にかかわって、ひとり不審な人物がいて、その男のことを知りたくて、男がカレー店を開く、この町で店を持った。三階建てのビルの一階に、奥に長い作りの店。ビルのオーナーは大手の表具額縁店。そこの次男坊である純は、夏樹が気に入ったのかよく顔を見せる。彼が同級生だったというネイルサロンのゆかりを客として連れてきたところから、物語は始まる。
ゆかりが持ち込んだ依頼は、古びた宿り木。何か思い出のもの。夏樹が額装を引き受けると、当の飾るものばかりではなく、持ち主の心の中までを知ろうとする。それらを知った上で、それにふさわしい額を作る。平面的なものだけではなく、立体的なものでも扱う。美術品ばかりでなく、日常品を額装することもある。額の形もそれに合わせていろんな形があり、それを置く場所の雰囲気やインテリアも考慮してつくる。
純と共に調べていき、ゆかりの過去、父親との確執が明かになり、父が残した宿り木の意味もわかってくる。
純の実家の客である定年した西木は、亡き妻が飼っていたセキセインコの声を額装してもらいたいと奇妙な依頼をする。妻の死後世話をしていた小鳥は飛び去ってしまい、その姿も声も説明できない。まずは鳥探しから始めた夏樹は、小鳥と亡き妻の様子を近所のひとから知る。仕事にかまけて、夫婦の会話もなかった西木夫妻。妻は小鳥に何を託していたのか。言葉を話せた小鳥に、教え込んだ言葉の意味は。
古い切れ切れの毛糸を巻いた玉を持ってきて、額装してほしいという女性。両親の離婚で離ればなれになった姉妹、
毛糸玉は妹の思い出の痕跡として大事にしていると。いつものように、彼女のことを調べ始めた夏樹は、彼女の言うのとは別の物語を聞く。彼女たちが通ったそろばん教室が昔、夏樹の店にあった。純の兄が通っていた。聞いてみると、それらしい少女はいたが姉妹ではなかった。親に折檻される自分を人形にたくして、妹として扱う少女。そろばん教室の先生にもらった毛糸の帽子は、親に切り裂かれ、それをほどいて毛糸玉にしていた。過去と決別し、新たな結婚生活、出産に向かう女性の決意を、夏樹はどのように額装するのか。
夏樹の回りにいる人々は、それぞれ過去の体験によるトラウマを抱えている。それに目を向けることを決意したとき、想い出の品を夏樹は額装する。
純の中学時代の臨死体験、親友を亡くし生き延びた自分を許せない純。彼を助けたカレー店の主、池畠。
夏樹の婚約者の事故において、ひとり逃げ出した感じの池畠。何を思い行動したのか。調べてみると、彼にも辛い過去があった。母親に無理心中に誘われ、ひとり生き残った池畠。その時の無意識の体験を、別の事故のときにも、繰り返してしまう。彼の思いでの品は、カレーポットだった。幸せな家族の時に食べた馴染みの店のカレーライス。何よりもカレーライスは彼にいきることを選ばせる。
夏樹の婚約者は、死の前に、後輩女性に親しくして、夏樹に嫉妬心を植え付けた。純粋な恋だったつもりの幼馴染みとの恋に影指す憂い。
過去のトラウマから目をそらさず、向き合うとき、新たな道が見えてくる。額装することで区切りがつく、冷静に眺められるものになる。