舞台は1990年代のテキサス州ヒューストン。主人公トニはアラサーの独身女性で、保険数理士として、投資会社に勤めるエリート。容姿は目立たないが、物事を堅実に合理的にさばく頭脳の持ち主。そんなトニの母親エレナは、トニとは正反対の女性。ヴードゥーの魔術めいた不思議な力を持ち、未来を予見したり、死んだカエルに命を吹き込むことができる。サラリーマンの主婦である傍らで、祈祷や占いもする。気まぐれで、大酒のみ、浪費家でトラベルメーカー。家なり金を稼いでいるはずなのに、手元に残さない。さらに、<乗り手>と呼ばれる憑き物が彼女に乗り移り、厄介ごとを引き起こす。

そんな母親エレナが病死するところから物語は始まる。トニにとっては、新たな生活が始まると喜んでいたのだが。エレナの才能の一部は、母に愛された美人の妹キャンディに、幸せな未来だけ見せると言う形で残されていた。それなのに、エレナに反発していたトニは、葬儀の最中に、<乗り手>の一人にとりついてくる。自分が頭から追い出されて、それに乗っ取られるという恐怖に怯えるトニ。
自分の容姿ではおいそれと結婚相手は見つからないが、子供は生みたいと願うトニは人工受精で妊娠。直後に、会社を首になる。母の予見で財をきづいた知り合いの会社に就職していたトニ。母はその社長とも関係があったらしく、上司である社長の息子から関係をたつために首にされた。エリートの高級を当てにして、将来設計をたて、妊娠したのに。生まれてくる子には父親が必要だと、結婚相手を探し始めるが、おいそれと見つからない。亡きエレナは高額の税金を滞納していたために、ためていた金をほとんど使うはめになる。
さらに、一通の手紙により、母の秘密が明らかになる。エレナはかつてカナダで結婚し、娘をもうけていた。その娘をおいてアメリカに逃れ、トニの父親と所帯を持った。カナダに残された義理の姉アンジェラは、エレナの残した莫大な遺産を受け取っていた。

はじめての妊娠に戸惑いながらも、自身を母親として自覚していく過程が、トニの回りの人々との交流と共に描かれていく。いつも優等生だったトニだが、頭脳のよさから取り越し苦労が多く、取り返しのない失敗や挫折の経験がなかった。そのために、前に進むことに怯え、躊躇していたトニ。
物静かで優しい父親、美人で楽天家の妹キャンディ、勤務先の社長親子、亡き母親エレナの親友だった老婦人メアリー、キャンディの恋人カルロス、エレナに興味を示す人類学者マンゼッティ博士などの、個性的な面々に囲まれているトニ。エレナが語り聞かせてくれたお話の主人公、小さな迷子の女の子は、トニの物語の進行と共に、何度も現れては歩き続ける。それが誰だったのかがトニにわかった時、嫌っていたエレナをトニは受け入れたのだろうか。自身が母になることを受け入れたのか。
アメリカ南部の大都市、夏の暑さとハリケーンの襲来、黒人とメキシコ人、魔術めいたものが今も残る風土。
6人の<乗り手>。未亡人、説教師、ミスター・コパー、シュガー、ピエロ、マネシツグミ。幼い頃からエレナに憑依した彼らを見て育ったトニとキャンディには、彼らは幻想ではなかった。その存在を理解していた。彼らを怖がるのではなく、受け入れることでトニやキャンディは人生を理解する。
生真面目なトニの言動は一見、滑稽にも見えるが、それでいて現実感を感じさせる。最初はつまらなく思えたが、読み終えてみると、なんとも充実感を感じる物語だった。