最初はあまり読む気になれなかった。戦前の少女雑誌作りに邁進した人々の話というので。
中断するもやむを得ないと思いつつ、読み始めたら、引き込まれて一気に読み終えてしまった。

佐倉ハツは自分の名前が気に入らなかった。モダンだとカタカナで名付けた父親。
卒寿を迎えたハツが施設で目覚めるところから物語は始まる。意識はちゃんとあるのだが、きちんと声に出せないために、世話する人たちには半ばボケていると思われている。そんなハツに見舞い客が訪れたと言う。この年になれば、誰にも会いたくなくて、面会は原則断っている。しかし、面会者が残した懐かしい言葉により、ハツは遠い日の想い出に耽っていく。フローラ・ゲームと書かれた箱の中には鮮やかな花が描かれたカードが入っていた。雑誌、乙女の友、昭和十三年、新年号附録、長谷川純司作。

昭和十二年、十六才になったハツは、音楽塾で女中をしている。貿易商だった父がいる頃は生徒として入ったが、父が大陸で行方不明となり、一気に生活が苦しくなり、生徒から女中に格下げ。時々父から多少の金を送られてくるが、贅沢は言えない。母は無理してでも女学校進学を勧めるが、病勝ちの母を見てると、早く社会に出て、金を稼ぎたいと思うハツ。音楽塾が閉鎖され、就職先を探していたハツに少女雑誌の出版社を紹介してくれたのは、父のいとこで下宿人でもある辰也。ただひとつ条件をつけた。編集主筆のもとを訪ねてくる人や、彼が出掛ける先を記録しておけと。

銀座にある会社に勤め始めたハツは、おしゃれな服装で働く社員を見ては意気が沈み勝ち。でもこの会社が出す少女雑誌、乙女の友の長年の愛読者だったハツには、やめるわけにはいかない。憧れの詩人である主筆の有賀と絵を描いている長谷川の黄金コンビの近くで働けることに興奮していた。
ハツがおじさんに頼まれていたことがわかり、主筆は一旦ハツをやめさせようとするも、抵抗するハツに根負けして社に残ることを許す。彼女の背後に政府の目があることを承知でいれば、何とか対処することもできると。

雑誌に対するファン以上の思い、明るさ、けなげさにより、次第に馴染んでいくハツ。戦局が進み、男性社員が次々と兵役にとられ、時局に会わないという制約の中、必死に雑誌刊行を続けていく。
作家が突然憲兵にとらわれ、さらに見せしめのように殺された。その穴を埋めるたね、ハツが密かに綴ったダクヒンが掲載され、ハツは作家にもなる。
主筆までが徴用され、若いハツが主筆の路線を継承できると認めたくなくて上部は、ハツを主筆にして、戦時中の刊行を続ける。
昭和二十年三月の東京大空襲、その焼け跡の中でもがんばるハツ。
終戦を迎えて、意気粗相する人々の中でハツは立ち上がる。今こそ、夢を与える雑誌の刊行が必要だと。

昭和十二年、十五年、十五年晩秋、十八年、二十年と、五部にわたり、綴られたハツの思いでは、エピローグで、まとまる。有賀の遺品により、ハツとの心のかよい愛があったことが実証される。