リディアは、絵を描くのが大好きな12才の少女。
彼女には近所の公園内にお気に入りの場所がある。幼い頃、行方が分かず騒ぎになったとき、彼女はそこで見つかった。以後、お気に入りの場所として、学校帰りに立ち寄っては、草木に隠れて見えない場所にあるベンチに腰かけて、一人で過ごすのが好きだった。
ある日、スケッチ帳に絵を描く鉛筆を、黒い鳥に奪われてしまう。明くる日、少年姿で現れた鳥少年は、鉛筆を返してくれた上に、ふしぎなカプセルの入ったケースを渡してくれる。24時間しかもたないとか、困ったときには使うようにと、謎の言葉を残した。
訳がわからないものの、しばらく前から感じていたふしぎな感覚のため、受け取ってしまう。奈にかが起こる予感?

彼女には医者をしている祖父がいて、色々プレゼントをくれたり、お出掛けに誘ってくれる。
そんな祖父に誘われて、国立の美術館にでかけたリディア。それが冒険の始まりだった。
本当は展示されてる絵に直接触れてはいけないのだが、レンブラントの絵に魅せられて、つい触れてしまったリディアは、別の場所に移ってしまう。
それはレンブラントの生きた世界だった。つまり、絵に触れることで、その絵が描かれた時代、場所にタイムスリップしたということ。
鳥少年から渡されたカプセルの薬を飲むと、その時代場所の言葉が理解でき、話せるようになる。だから、コミュニケーションには不自由しないが、育った文化が違えば、互いを理解するのも大変。まして着ていたものが、現代のものだから、過去の世界では考えられない素材。
それでも、幸いなことに、リディアには絵の才能がある。相手するのが画家だから、全く共通点がないわけでもない。過去の巨匠から絵の手解きを受けたり、絵の創作秘話が聞けたりする。
最初がオランダのレンブラント。ついで、触れたのがスペインのベラスケス。三番目が、フィレンツェのレオナルド・ダヴィンチ。四番めは、パリのドガ。五番目はロンドンのウィリアム・ターナー。六番目がスペイン東部の漁村カダケスに住むサルバドール・ダリ。
彼女がタイムスリップをするのは、絵に触れること、となれば、触れられるのはより過去の絵にしかならないことになり、リディアはもとの世界である現代には永久に戻れないことになる。しかし、そう悩んでいるときに現れた鳥少年がヒントをくれた、リディア自身が自画像を描き、それに触れたら、現代に戻れるかもしれない。
そうして、ダヴィンチの世界から、美術館に戻ったものの、絵画を盗もうと侵入した盗賊と出くわし、帰宅することもできずに、次に飛んだのが、ドガの世界だった。

ダリの世界から現代に戻る際に現れたのはまたしても鳥少年。彼の力で現代に戻ったリディアが見つけられたのは。やはり公園のお気に入りの場所だった。現実では二週間失踪していたらしい。
当然事件になっていたが、彼女の話をまともに聞いてくれたのは祖父だけ。あとは夢か妄想だと決めつけられ、親友も離れ、ひとりぼっちになるリディア。
またしても現れた鳥少年は、彼女にはもう過去に移動する力がないと。なぜそんなことが彼女にできたのかは知らないと。ただ、彼女は自分自身を知らなかったのだと。あのふしぎな経験で、彼女は自分自身がよりわかるようになったのだと。たぶんそれがあの経験の意味ではないか。行く川の流れは絶えずして、人は変わり続ける。そうして新たなことを学んでいくのだと。
帰宅してみると、過去の世界から手紙が届いていた。ダリのもとに置き忘れたスケッチ帳が送られてきた。
お気に入りだったジーンズもあまりにも長く着ていたので、服装の趣味も変わり、ドレスも着るようになったリディア。
鳥少年が別れ際に手渡した小さな鍵。彼女の部屋の机には鍵がかかったひきだしがあったが、その鍵はそれを開けるためのもの。中には、表紙に「カンヴァスの向こう側」と刻まれた白紙の本が入っていた。その白紙にリディアは、彼女のふしぎな経験を綴ることにする。それが、本書。