正直、期待はずれの作品だった。
短編集で、江戸時代の京都で絵を描いた女流絵師たちを描いた8編からなる。

最初の作の主人公は、二十八のお喜和。両親が夫婦別れをして、飲んだくれの父親に残された三人娘の長女として、妹たちの世話にかかりきりの喜和。好きな描き絵の腕で、扇の絵付けをして暮らしを支えた。出入りの扇屋の番頭と男女の仲になり、小遣いをもらっていたが、遊び人の職人と所帯をもった妹たちにたかられる。番頭のことが妹たちに知られ、自分達が鴨になるのをさけるため、家出を考える喜和。

小藩の改易で浪々の身となった夫が始めた扇絵。夫の死後、手伝いをして居たその扇絵で、娘ののえと暮らす富佐。写生に赴く寺で分けてもらう菊の芯でつくる枕も生計のたしに。生前の夫と顔見知りだったという塾を開く浪人と知り合い、娘を入塾させる。それに最近の扇絵の注文主はその人の親類らしい。いつかその人との新たな暮らしを夢見る富佐。

大垣藩の京都留守居役の娘於貴。琴や和歌を学ぶよりは剣術が好きだと言う娘に進めた描き絵。四条派の松村呉春に入門した於貴は、一年後兄弟子と男女の中にはまる。彼に騙されたと気づいた於貴は、彼を斬殺し、自害する。

駿河台狩野家の友川寛信の弟子になり、寛好の画号をもらったお栄。父は大垣版を人減らしのために、浪人となり、寺子屋を開いていた。母がいないため、長屋の住人たちに世話になった。師の寛信が、朝鮮使節のために心血を注いだ絵を、老中青山に極評されて、割腹。師の敵を討とうと、お栄は師の首をもって老中の屋敷に向かう。

織田家の末裔であることに捕らわれていた旗本津田家を継いだ政江。婿養子の死後は息子に期待していたが、どうも息子もそぶりが怪しい。問いただすと、織田家にこだわる母を逆に非難し、自分は蘭学医を目指していると言う。古い名誉だけにしがみついていただけでなく、露香女史の桜花図に魅せられ、それを手本に絵の研鑽を積み、織田桜と言われる桜花図を残す。

前大納言の妾腹の娘、柳女。似顔絵の町絵師として、郭でかせぐ。そこで知り合った武家と深い仲になるも、彼は妻子持ちだった。一言詫びてもらいたいと屋敷に訪ねたために、斬殺されてしまう。

四条派の呉春の弟、景文に師事したしかは、父親が淀藩に仕えていた。御所に仕える病身の夫をもったしかは、兄の同門である寺侍衣笠といつか深い仲になる。それを知って身を引こうとしてか、夫は自害。後悔し、通夜の席で兄弟子に告白するしか。彼女の絵師として中断を望まない兄弟子は、知人の居る加賀で雪椿でも描いてくればいいと言う。

四条派の老絵師八木奇峰に師事した多佳
。奇峰は景文に師事して、幕末の京都画壇で屈指の絵師だった。多佳の父は上役の不正をあばき、浪々の身となった。京扇子の骨削りの内職をしていた。花鳥図の得意な多佳は、方広寺の阿弥陀図の注文を受ける。幕末の混乱期のなかでかきあげた阿弥陀図だったが、明治維新の廃仏により、寺ともども無に期す。彼女が関係をもった錦織職人が織ったのは、錦の御旗だった。朝廷の役にたてたと喜んでいたら、なんと天皇や朝廷は、京を離れ、江戸へ向かう。抗議のために御所に向かった二人は、弾正台の警兵により、殺されてしまう。

絵師としてよりは、一人の女の生きざまを描いた作品というほうが強く感じた。