摺師安次郎人情暦シリーズ第2作。
錦絵と呼ばれる多色摺の浮世絵は一人ではできない。絵師が描いた絵を版下にして、彫り師が板木をつくり、単色で擦られたものに、絵師は色を指定して、摺師に渡す。それを見て、摺の順番や摺の技法を決めるのは摺師。その技量次第で錦絵の善し悪しが決まるのに、摺師の名は一切表にはでない、影の存在。それなのに、まんまの安という二つ名で知られた安次郎は、磨り師として抜きん出た技量を持っている。そんな安次郎が市井で暮らしながら、出くわす事件や騒動を描いた人情時代小説。
生まれは一橋家に仕える武士だった安次郎。幼い頃の大火事で家族も屋敷も失い、摺師の親方に助け出され、育てられて、摺師の職人になった。のちに、安次郎の家を引き継いだ叔父が現れるが、武士に戻らなかった安次郎。
幼馴染みの友達新吾郎、その妹で出戻りの友恵。安次郎の腕にほれこみ、弟弟子になった直助。彼が恋する親方の娘おちか。息子を生んで間もなくなくなった女房のお初。息子の信太。乳飲み子だった息子はお初の在所で育てられた。
そんな息子もはや5歳。怪我をしたことで、申し訳なく思う育ててくれた舅夫婦の気持ちを考えて、長屋での一人住まいに息子を引き取ることを決意する安次郎。
今作で描かれたのは、安次郎の兄弟子で色盲となり、親方の店から姿を消した摺師、伊蔵。そんな男が安次郎の手掛けた絵の後摺をして、腕が衰えていないことを示す。さらに、その息子と思われる子供が現れ、安次郎の店の見習いになる。
流れ者の摺師、新吉はもたらした騒動を描いた第2話。女を気持ちよくさせる口がうまいため、女たらしと陰口を聞かれるが、腕も確かだし真面目に仕事をこなす新吉。出入りの彫り師の親方の娘が婚約者がおりながら、身重となり騒ぎになり、あらぬ疑いで、新吉は半死半生の目に遭う。
若い人気役者の絵を若い絵師が描き、それを錦絵にしたものの、役者がけちをつけ、絵師が反発して喧嘩騒ぎになり、彫り師の伊之助、摺師の安次郎まで巻き込まれる。見かねた絵師の師匠である国貞がかきなおすという。それを利用して、若い絵師と役者をこらしめるいたずらを仕掛けた安次郎と伊之助。国定はそれにどう反応するか?第3話。
いとこのいたずらで、利き手の親指が曲がってしまった信太。引き取った長屋でいじめられながら、父である安二郎に打ち明けない息子を心配しながら見守る。
父が刷る板木を掘る彫り師になりたいという信太。伊之助が左利きと知り、頼みごとをする信太。第4話。
武家や大きな商家に頼まれて、一枚磨りをする磨り屋の職人が安二郎に勝負を挑んでくる。最初は意味がないと断った安次郎だが。その勝負の裏には、その職人と親方の娘婿の確執や、幼なじみの武家の娘の行く末に関わる事情があるのを知り、勝負に出ることにした安次郎。その結果はどうなったか。
各話の結末には、摺の技法が関わり、それがタイトルになっている話があるのは、前作と同じ。
人情味豊かで、なかなか読ませる作品になっている。