副題にある、其角と一蝶という二人の男の物語。
芭蕉の高弟である俳諧師の其角と、絵師の多賀朝湖は友だち。朝湖のことを、其角は俳号の曉雲で呼ぶ。出会いはある日ふらりと師匠のもとに俳諧の教えを受けに来た朝湖の魅力にひかれ、9歳年上の彼と友だち付き合いをするようになる。豪放磊落で、心で思索し、理屈ではなく情で動く。くるくる心は変わるが怒ったことがない。人の心を明るく楽しくさせる才覚がある。彼は、狂雲堂と名乗るたいこもちでもあり、吉原では知られた存在だった。
一門で窮屈な思いをしていた其角には理想の姿に思えた。そして、何がいいのか、ひんぱんに彼を誘ってくれる。時にはたいこもち狂雲堂の連れとして、其角は狂雷堂と名乗った。しかも年下の其角に、友だからと曉雲と呼び捨てにさせた。
曉雲が四十のときに、彼の回りで奇妙な騒動があった。吉原の遊女がもらった屏風の絵のなかの子犬が動いたとか、抜け出したという噂がたち、次々と屏風を譲られた遊女が消えた。神隠しにあったみたいに。以前から二人で、ちょっとした騒動に首を突っ込み、謎解きめいたことをしていた二人は、当然この騒ぎに関わることになる。
行方知らずになった女の一人が首を締められて殺されて見つかる。
調べ始めた二人は、他の女たちの行方知らずと、殺された女の件は別ではないかと感じる。ともかく、遊女が郭の外で見つかったからには、どうにかして郭から抜け出したことになる。それを手助けしたものがいると考えた二人が目をつけたのは若い衆の男。そして、郭の面番所の同心。
その男を取り調べていくうちに、騒動にはアヘンが関わっていることはわかる。しかも奉行の内与力が秘命を受けて、乗り出してきたことから、背後に大名の存在が明らかになる。
とすれば行方知らずの女たちは、さらわれたのではないかもしれないと推理し、遊女屋の女将を問い詰めて、真相に行き着く。
曉雲がたいこもちになったのには、訳があった。絵の弟子だった女が、将軍生母の気まぐれにより、遊女に身を落としたために、彼女を慰めるためにたいこもちになった。彼女はその後自裁したと。そのために、彼は将軍の生母には屈託がある。そのために、彼女にたいして行ったかどで、彼は島流しにされ、十数年後に、将軍逝去の大赦で江戸に戻る。友はすでになく、新たにいきるために名を変えた。英一蝶と。