岡島雪江は、婚家を離縁され、実家に帰ってきた。岡島家は奧祐筆の家柄で、父は隠居し、知行地の田舎で暮らしている。3才年下の新之丞が現当主。美男で役者のような風貌ながら、剣術の腕もある。ただ人一倍見映えにこだわるのが、姉としては不満。
嫁入り前に、当代の三大書家の一人、巻湖に師事していた雪江は、自宅で書道塾を開くことにした。
開塾の朝、玄関先に群がった娘たち、それは登城する弟を見るために集まった娘たちだった。
自分の弟子など誰も来ないかと心配していたが、なんと十五人もの弟子が集まった。雪江の真ん前に座り、幼馴染みの二人の娘を家来のように従えた小塚卯美は、出戻りの雪江に無遠慮な質問をしたり、親の地位が高いのをひけらかすような言動が目につく。
十五、六歳の娘たちが集まると、壮観だった。時は折しも水野忠邦の天保の改革の最中とあり、娘たちの着物は地味だった。
卯美の毒舌に傷ついた娘にまつわる事件がいくつか語られ、そして、彼女のもと夫に関わる事件の話になるが、その前に雪江と師匠の関係が語られる。女だてらに書家を目指そうとしても、普通の書家はそれを認めない。それが雪江の師匠は男女隔てなく教えた。大酒のみの師匠につきあい、かなりの酒豪だった雪江は可愛がられた。塾を開いてまもなく、師匠が田舎の村人に頼まれて、のぼりに神社名を書く催しに、四大弟子と言われる兄弟子と共に参加した雪江は、そのしばらくあとに、塾に来た師匠から、堂号名と師匠自ら描いた看板を贈られた雪江。昔密かに恋心を抱いた一番弟子雪城。久しぶりの再会に浮かれていた雪江に、師匠は今後会うなと言う。一見昔ながら優しい兄弟子に見えたが、その実は出世のために商人の娘と所帯をもち、大名家に指南に行く男に変わったらしい。それが明らかになるのは、師匠が突然死んだあとだった。亡くなって一月もあとに知らせて寄越し、訳を尋ねると、兄弟子に先だって号をもらった彼女に不満を抱く弟子がいるためだと。それを緩和するために、一時的に号を控え、雪城の弟子にならないかという。そして彼の一番の狙いは、雪江の最新の弟子にあった。彼女は老中忠邦の姪だった。今更ながら、師匠の忠告を思いだし、きっぱりと断る雪江。
雪江が離縁された訳は、はっきりとは告げられていなかった。いくつかの粗相はしたが、離縁の理由にもならない。しかし、彼女はそれをたださず、実家に戻った。
その真相がわかるのが、最後にいくつかの事件。羽田に創設された外国船に対するための遠国奉行。目付だった雪江の夫は、その取締役に任命され、生死の危険もあることから、妻を離縁した。その地で起こったフランス人への発砲事件。手配されたのが、夫の姻戚だと知った雪江は放置できず、首を突っ込み、弟を使い事件を調べる。
結局は、夫が監視していた横領犯の企みによる冤罪だとわかり、最後には無事解決し、それがきっかけで、もと夫が迎えに来て、もとの鞘に戻ることになる。
書道塾も、婚家で続けることになる。