江戸深川で小さな質屋を営む千鳥屋。その娘のお縫の目を通して、千鳥屋がもつ長屋の様子を描いた人情時代小説。
その昔、祖父が始めた大きな質屋は浅草にあったが、父の代に大水で店を流され、深川に移り、こじんまりと再開。資金繰りにも困った折りに、祖母の病が重なり、故買に手を染めて、なんとか生き延びた。当時の知り合いの小悪党の面倒を看たことがきっかけで、いつか七軒の長屋の住人はみな、表家業を持ちながら、裏の顔をもつ小悪党ばかりに。裏の顔があるために、普段は愛想よく面倒見がよい住人たち。おかげで、世間では善人長屋と呼ばれている。そんな皮肉な呼び名に腹をたてる縫の愚痴から物語が始まる。
ひとつ空いた長屋に間違って入居した錠前屋の加助。一目で相手の習い性を判じることができる縫は、加助を見て、本物の善人だと判じた。赤坂の大火で妻子をなくした加助。お人良しで面倒見がいい加助は、町で見かけた困った人や問題を抱える人を長屋につれてきて、結果、大家である縫の父親儀右衛門をはじめとした長屋の連中が協力して、事件の解決に当たることになる。裏家業を持つ身だから、役人に訴えるどころか、逆に秘密でことにあたらなければならない。
裏家業の技を使ったり、時には悪党を詐欺にかけて解決する。
困るのは裏家業には縁がない新入りの住人加助。彼には言葉を濁したり、嘘をついて、解決に当たる。
髪結い床の親方半造は、裏世界では情報屋で知られている。
小間物のかつぎ売りの安太郎はもと大組織のすりの仲間だったが、今は一人働きのすり。足を洗ったものの、仲間を抜ける際にできた借金を返すために、一人ですりをしている。
美人局をしていた文吉兄弟は陰間茶屋から逃げてきたが、弟の文吉が女形張りに女装がうまい。
盗人一家に若い頃にいた庄治は堅気の娘と所帯をもち、足を洗った。息子が跡を継いで大盗人になるといい、奉公に出ないと言い出し困るが、結局加助に弟子入り。
浪人梶新九郎は上野の小藩の出で、代書屋を裏表勤めている。表では手紙の代筆を、裏では偽の証文や手形を拵える。国許で友のいいなづけと関係をもち、その死に疑いを持たれて逃げた。
その真相は彼が殺しの下手人として捕まったことをきっかけに、長屋の連中の働きで明らかになる。
加助のいた部屋の前の住人源平は、昔世話をした女の娘が玉の輿に乗ったのを見届けて、国に帰ったのだが。その娘が非業の死を迎えたと聞き、敵討ちに舞い戻る。火事屋と呼ばれる源平は目当ての家だけを火事にして、一切類焼させない腕をもつ伝説の人。源平蛍の最後の様を見ようと、名だたる悪党が見学に来る。昔は手下を引き連れて望んだ源平を今回手助けするのは、長屋の面々。
騙りを裏商いする菊松とお竹夫婦。
お縫の父の若かりし頃の活躍や、加助の妻子の秘密など、大がかりな事件もあり、なかなか面白かった。
これなら続編も読んでみたい。