新たな写楽像を描いた作かと思い、借りたのだが。
写楽を現在有力視されている阿波候お抱えの能楽師斎藤と前提した上で、
写楽の謎と言われていることの解明をしたフィクション。
主人公は26歳の独身女性桃井初音。24年前に彼女の母は失踪した。祖母に育てられた初音は、大学を出た後、憧れの映画研究会の先輩、浅川に誘われて彼がディレクターを勤めるテレビ番組製作会社に契約社員として雇われ、カメラマンを勤めている。
お宝発掘番組で、ある老人が持ち込んだ人相書きの絵を見た瞬間、奇妙な経験をする。ピンクの靄のようなものが見えた。鬼平と言われた江戸時代の火付け盗賊改め長官、長谷川平蔵。老人の先祖は平蔵の部下で、それがもとで代々受け継がれてきたという。収録後、靄の正体を知りたくて、老人にたのみ、その絵を手に取った瞬間、頭を殴られたような衝撃を受ける。絵の人物がありありと目の前にいるかのように感じられた。
そんな桃井を訪ねてきたのは、チェーンテレビ局オーナー一族の異端児、表聡一郎。桃井を飲みに誘い、よいつぶれた桃井は誰にも話したことがない秘密を話してしまった。物に触れると、それに関係する映像を見る。
超常現象にも浮世絵にも興味を抱く表は、番組で出された肖像画は、写楽のデビュー作ではないかと考えていた。多色刷りの浮世絵は最初に墨1色で試し刷りがされる。それではないかと思う表。桃井の秘密の能力を知った表は、それを利用して、謎多き写楽の謎にたどりつけるかもと考え、写楽ゆかりのものがある場所に桃井を連れていき、ゆかりの物に触れさせる。
最初同様頭に衝撃を感じた桃井初音は、タイムスリップして、心だけが江戸時代に飛ぶ。そして、後に写楽の浮世絵の彫りをした親方春吉の娘はつの心に同居してるのに気づく。
折しもはつは盗賊に襲われ、手込めにされかけていた。芝居見学の帰り道の能楽師斎藤に救われた。火盗改めの与力に頼まれて、逃げた盗賊の人相書きを描いた斎藤。これが写楽の最初の絵だった。絵のうまさから、折しも公儀に身代半減の罪を得た版元の蔦重が役者絵を描かないかと誘うが、斎藤は大名の家来だからと断る。
次いではつの時代に飛んだ初音が見た3年後の写楽は、蔦重のために懸命に絵を描いていた。生まれた息子が病弱で、薬代や医者の支払いを蔦重にされて、描かないかとならない状況になっていた。
病弱の息子をなくしたことで、描く意欲をなくした写楽は筆を折ったために、突然消えた。
長谷川平蔵や池波さんの作品に登場した狂盗葵小僧が写楽や初音に関わる展開はなかなか面白かった。
はつのなかに潜む初音を見抜いて、恋をした写楽、そんな設定も面白い。秋田蘭画を学んだ女絵師がどういう設定なのかがよくわからなかった。あるいは初音を捨てた母親も同じ能力をもって江戸時代に行き、宿主を乗っ取ってしまったということなのか。
著者が実際に現代に版画を研究し、実地に技を磨く彫り師や刷り師に取材しての、描写は興味深い。多色刷りの浮世絵は絵師、彫り師、摺り師の三者の共同作業でありながら、版下の絵師の名前しか後世には伝わらないことや、彼らを後援し、まとめあげる版元のプロュデースに関しても興味深い。