濱次お役者双六、と角書きにある。
主人公は江戸の森田座の女形。出産時に亡くなった母の代わりに、大道具方の父と芝居小屋の人々に育てられた濱次。
今は引退した脇役で名を売った女形有島仙雀に弟子入りして、今は名題下中二階の駆け出しの女形。
話は舞台稽古で立て女形を怒らせ、稽古中止から始まる。客入りが悪い夏の興業に座元の勘弥が出した新作は怪談話。根から怪談好きな濱次は脇役でありながら、主役と一緒に踊り出してしまい、主役を怒らせた。
勘弥も小言はいうものの、濱次に期待するものがあるのか、あまりこっぴどくは責めない。
師匠を訪ねて、稽古を付けてもらい、その帰り道。町娘に声をかけられ、鉢植えの花を預けられる。
小屋に持ち帰った鉢を見て、世話係の奥役の清助が目の色を変え、自分が預かるという。不審を覚えながらも厄介払いに預けた濱次。

懇意にしていた芝居好きの隠居した商家の主のところで、見かけたことがあるため、清助は濱次が持ち帰った鉢植えのいまだつぼみの花の正体に気づいた。同好のものの間では珍重されている変化朝顔だった。いわば変種の朝顔。どの部分がどう変わっているかで評価が代わり、品評会である花合せでは順位がつけられる。うまくいけば好評価で高価になるし、人の花を勝手に売れないが、種をいくらか懐にして売ればいいと考えた清助。
知り合いの料亭の女将の紹介で花合わせに出席し、かなりの高評価を得るも、詳しい栽培法を知らないため、逃げるように立ち去る。その鉢が長屋から消えた。清助が住むのは、八丁堀の町奉行の同心が館内に作った貸し長屋。怪しいものが出入りしにくい。
事情を知った濱次は清介共々、預けた娘と盗んだものを探し始める。

変化朝顔の栽培に狂い、本業を忘れ、娘の祝言さえ危うくさせた植木職人。悪党が介在したわけではなく、魔が差して鉢を持ち出した人を介してめぐる人の繋がり。小屋しか知らない弟子の役者としての大成を願い、世間を知らせようと、探偵の真似事を見守る師匠。
亡き兄弟子で伝説の女形の面影をかいま見せる弟子を見守る師匠。伝説の女形の霊が濱次にとりついているのを知る勘弥。

父親同士の確執をやめさせるために、宴席で濱次は亡き香風がとりついたような舞いを見せ、すべてを丸く納める。

なかなか味わい深くてよかった。続編があれば読んでみたい。