読みごたえがあり、ようやく読了。
江戸中期に活躍した歌舞伎役者初代中村仲蔵の生涯を描いた作品。

血縁や師弟関係から名題の名跡を襲名する役者が活躍するなかで、一人下積みから表舞台にあがるまで、名前を変えることなく活躍した名優。
仲蔵は浪人の子として生まれ、三歳で孤児となるも、長屋の人々の世話で育ち、五歳にして大家につれられて養子となる。芝居町にすむ長唄の唄うたいの中山小十郎と躍りの師匠であった志賀山おしゅん夫婦が養父母となる。養子を頼んだあとに妊娠したために、最初は子守りをさせる小僧としてなら受け入れると言われた。生来の愛嬌のよさと澄んだ目が気に入られ、正式に養子となる。かわいい顔ながら、声にのびがなく艶がないことから長唄には向いてないと、養母おしゅんに躍りを叩き込まれる。熱中すると鬼にもなるおしゅんに時に恐怖を覚えながらも精進し、何度か挫折しながらもついに会得。
養父母は共に中村座に所属していた。養母の折檻から逃げ出して、顔見知りの中村座の太夫元の奥さまに助けを求めたことが縁で、中村座に出入りするようになり、かわいがられ、やがて子役の役者として出ることになる。子役ながら評判となったものの、十五になったとき、ひいきの商家の主のすすめで、役者から足を洗い、年老いた養父母と共に酒屋を始める。所帯を持ち、大家族で暮らし始めたが養父養母を次々となくし、商いもうまくいかないところに見た中村富十郎の躍りに魅せられ、芝居に戻ることを決意。中村座は顔見知りの六代目は引退し、会ったことがない長男の七代目。戻ることは許されたものの、一番下っぱの稲荷町と呼ばれる階級で、給金は年に七両。

下から這い上がると決意はしたものの、実際は並大抵の苦労ではない。つきあいがわるいと仲間にいじめられ、死ぬほどの悔しさから川に飛び込んだこともある。さいわい、魚釣りの旗本の家来に助けれ、諭された。それが後の田沼老中の家来だった。
当時まだ若手の四代目団十郎と知り合い、共に研鑽する。

そんな仲蔵が中村座を追われて出た市村座。宛がわれた役は忠臣蔵の定九郎。つまらない山賊で少しの間しか出ない役。しかし彼はそれに工夫をした。もと家老の息子が落ちぶれた姿。ならば山賊の風体よりは浪人の方が本当。座頭に無断で舞台にたったそれで、仲蔵は人気役者となる。

中村座、市川家の紛争に追われながらも役者として生きた男。