四百三十頁はさすがに長い。朝から読みはじめて、今ようやく読了。

舞台は江戸の芝居小屋中村座。正月元日の夜に、三年ぶりに火事にあい、全焼はまぬがれたものの、かわりに衣装行李に入れられていた死体が発見される。最初は身元がなかなかわからなかったが、売れない女形たちが気がついた。彼らに小間物を売りに来ていた行商人の年寄りだと。

小屋主の太夫元である中村勘三郎。たて女形とはいえ、すでに還暦を越えた三代目荻野沢之丞。楽屋頭取の中村七郎兵衛。立作者喜多村松栄。帳元善兵衛。それに金主である、水戸藩出入りの大久保庄助。大道具方の清兵衛。この七人が中村座を牛耳る幹部と言える。

北町奉行所同心の笹岡と見習い同心薗部が捜査を始めるものの、なかなか進まない。笹岡は桟敷番の右平次と沢之丞の弟子である沢蔵を密かに手先として、芝居小屋内を調べさせる。
身元はわかったが、足取りもわからず、殺されたわけもわからない。ただ上方から江戸に来たのも、長屋に住み始めたのも、小間物屋をはじめて、中村座に出入りするようになったのも、三年前とわかる。息子がいるがなかなか会えないと聞いたことがある馴染みの沢蔵は、三年前の火事で逃げる客に踏み潰されてなくなった二人の幼女の遺族かと思い、笹岡に報告。

火事を続けて出したために、公儀から芝居小屋を潰されるかと悩む太夫元たち。彼らの懸念は沢之丞の襲名の行方。還暦過ぎた彼には二人の息子がおり、どちらがあとを継ぐのかやきもきしている。金主はなぜか花がある次男を押しているが、沢之丞はなかなか承知しない。
調べを続けていくと、腹違いの兄弟である次男の母親は商家の娘ながら奔放な女で男もかなりいたらしい。金主、立作者など。襲名が取りざたされる次男には出生の秘密があるのではないか。それが原因で起こった連続殺人事件になったらしい。小間物商忠七、桟敷番の右平次、楽屋頭取七郎兵衛が殺されていき、最後に下手人に対峙したのは沢之丞。芝居小屋などに迷惑をかけぬように自害をすすめる。それを予見しながらも傍観していた同心笹岡。正義感の塊である見習いの不平を無視した彼は、誰よりも芝居を愛する心を持っていたのかもしれない。

タイトルは中村家の先祖が観世の太夫から贈られた扁額の文句。ひとつの道を極めるにはよそ見をするな。問題はその道が誰でも同じではないということ。芝居に生きるか正義に生きるか、天職に邁進するのが肝要。