猿若町捕物帳シリーズ第五作。
松井今朝子さんに最近はまっていて、歌舞伎という芝居について、毛嫌いから少し興味を覚えて、芝居の世界が関わる作品を読んでみたくなり、手に取ったのがこれ。シリーズものなら第一作から読みたい気もしたが、まずは新しいものをと。巻末に作家門井さんの解説があるが、それによれば、第一作と二作は長編、三作と四作は短編集。後者ならどれから読んでもかまわない。とっかかりに最新作を読むのもあながち間違ってはいなかった。

門井さんによれば、作家の目線から見ると、近藤さんは無駄かない端正な描写がすぐれていると。読みやすく、わかりやすい。それでいて面白いものを書くのは、難しいと。無駄を省いた行間の余白が美しい文章だと。私にはおぼろげにしかわからないが。

シリーズもあと四作なら読んでみるのもいいか。

主人公は南町奉行所同心、玉島千蔭。いまだ独身だが、女には持てる。親しいのは猿若町の中村座の女形巴之丞と、吉原の遊女梅が枝。

隠居した父親千次郎が、与力の娘で千蔭よりも若い娘を後妻に迎え、赤ん坊が生まれた。年の離れた妹ができた。
千蔭にいつも付き添う小者の八十吉。かれが話の語り手を勤める。

博打好きな兄に付きまとわれている所帯をもった妹に同情する長屋の差配から相談を受けた千蔭。やがてその差配が殺され、道楽者の兄が容疑者となるが行方不明。ほんとに奴が下手人かと疑う千蔭。
世間を騒がす髷切り。折しも巴之丞の芝居の作者利吉は、今は破門された博打好きな兄弟子にたかられる妹のことを千蔭に相談する。新たな髷切りは傷害も起こしたが、前とは違う感じ。何が結び付くかわからないもの。
上方下りの役者の舞台は素晴らしいが、実像は女をはらませては他の男に押し付ける嫌な男。そんな押し付けられた妻と子を大事にする役者が殺された。首吊りに見せかけて、舞台の奈落の底で。

吉原で火事が起こり火傷した女郎のために屋敷を提供した旗本の老人。若い女郎の相手だったのに、なぜか千蔭馴染みの女郎梅が枝をひかせるという。夫の老いてはじめての道楽に寛大な顔を見せていた奥方の心の奥に燃える火は。

大工の息子が屋根から落ちて廃人となり、長屋の情けで生きていた。女に頼まれて富くじを買ったはずの男が殺された。当たり金が狙われたのか。隣家の美貌の兄妹が怪しいとにらむ千蔭。