明治時代後期、日露戦争が終わる寸前の時代に、東京で起こった三件の殺人事件。捜査の指揮を執るのは警視庁第一部の部長、鳥居警視。髭を生やした警察官幹部が多いなか、髭も生やさず、もと旗本で、侍らしい風格のある人。薩摩出身者が多い警視庁で、伝法な六方言葉を話す点も珍しい。
部下の芦名警部は仙台の出身で、幕末にできた洋式部隊の総督の縁者。
その部下がこの物語の話し手といえる米沢出身の岡崎巡査、柔術の猛者の久坂巡査、会津出身で剣術の達人岩井、和服姿で江戸っ子の荒木刑事巡査。

不忍池で見つかった遺体には心臓への刺し傷が残っていた。発見者の富山の薬売りに話を聞こうとすると、地元の本郷警察署が話を聞いて帰したという。不審に思い問い詰めると、内務省から捜索を止められたらしい。
被害者は大学の講師で、ドイツ主義の教授。
二番目は陸軍大佐で自宅付近で刺し殺された。武器も死因も同じ。現場付近で不審な老人が見かけられていた。

殺された高島教授は二十歳も年下の子爵令嬢に言い寄っていたのがわかる。しかし調べてみると、令嬢はそれほど嫌ってはいなかった。彼女が通う女学校の庶務のおじいさんの紹介で手紙をやり取りしていた。
その老人があやしいと会いに行ってみると、なんと警視庁の大先輩で伝説の人、藤田五郎。新撰組で活躍した斎藤一が維新後警視庁に入り、西南戦争で活躍した人。彼もその腕を買われて捜査に加わることになる。
他に自称探偵という西小路、なぜか警視は捜査に加える。祖父に伯爵を持ち、大学関係に詳しい点が買われた模様。

政府を牛耳っている長州出身の山縣派。同じ長州出身でも、ドイツ派の山縣派に対立するフランス派のものは冷遇されていた。
殺人の武器は細身の両刃の剣で、心臓を一突きにした傷跡から横向きだということから、西洋の剣だと判明。フランスで盛んな武器。
怪しげな薬売りも殺され、彼が内務省の密偵だとわかる。冷遇されているフランス派の将校に代わり、西洋剣術の弟子が起こした殺人事件。内務省からの横やりに逆らい、ついに犯人を捕縛。しかし、その師に当たる人物が暗殺されたことを知った警視らは、一丸となって、たぶん事実を聞いてない山縣翁に直訴し、なんとか形だけは無念を張らす。ロシアの密偵の捜査の過程で命を落としたことになる。名誉だけは守られたことでよしとするしかない。