羽野千夏は民俗学を専攻する大学生。今は国立民俗文化学博物館に出向し、研究をしている。言い伝えとか民話、昔話のような口頭伝承の研究をしていて、フィールドワークの現場に困っているときに、紹介されたのが認知症グループホーム風の里。認知症ですべてを忘れたようでも、最後まで忘れずに残っているものがあるのではないか。入所たちと話をすることで、その片鱗に触れることができるかもしれない。千夏はそう思い、ボランティアのスタッフとして働き始める。

介護職員が三人と入所者が六人の風の里。いくつものホームを傘下にもつなかで、どこでも厄介者となった、問題を起こすことが多いものが集められたような風の里。個性的な入居者に最初は戸惑うばかりの千夏。やがてそのなかで一番年嵩の老女ルリ子が気になる。普段は物静かなのに、時に逃げ出したり徘徊する癖をもつ。どこへ行きたがっているのか、聞き取れない言葉を話しているが何を言っているのか。職員はもうろくした老女の言葉に意味はないとつっぱねるが、何か意味があるはずだと千夏は、聞き取れる言葉の断片を拾い集めていく。そのなかでとくに大事な言葉と思われたのが、オランクチ。調べてみても該当する言葉はなく、ネット上で質問を出してみた。

それに答えてきたのが、私立の名門校に通う高校生の大地。無関心な父親と教育熱心な母親に挟まれて窒息しそうだった彼は学校を密かにサボっていた。幼い頃父の故郷である山梨の山奥で祖父母と過ごした日々をなつかしがっていた。話好きの祖母が、その言葉を口にしたことがあるのを思い出した大地は千夏に返事をしたことがきっかけで、二人でその言葉の意味を探索することになる。そのなかで、ルリ子の過去や思い出を探索することにもなる。さらにルリ子がどこかへ行きたがるようになったきっかけを探した結果、監禁されていた二人の少女を救い出すことにもなる。

ルリ子の過去を探索するには、今までは無関心だった入所たちが協力するようになり、それによって各自の症状もいくぶん回復。画一的な治療法を押し付けるカウンセラーに、文句を言えるほどになる。

患者の個性を認めず、画一的な治療法を押し付けることでは患者の回復には役立たないのではないか。そんな疑問を投げ掛けてもいる作品のようだ。ルリ子の過去を探る過程がミステリーのように面白かった。