泉鏡花という明治時代の作家は懐かしい名前。彼のふるさと金沢は、私が大学時代を過ごした街。文学館での鏡花の読書会にも何度か参加した記憶がある。当時も今も鏡花自身にはそれほど興味はないのだが。

本作の冒頭には鏡花の作品の一部が引用されていて、その舞台となった三浦半島の横須賀にある旧家を浅見探偵が訪問するところから始まる。
取材の相手をしてくれた老主人がその後、金沢近くの小松で遺体で見つかることから、今回の浅見探偵は事件に関わっていく。

温厚で人に恨みを受けることもない老人がなぜ殺されたのか。警察は早々と強盗に襲われたと断定して、捜査は膠着。
日頃避けていた北陸になぜ老人は出掛けたのか、さらに殺されるまでの足取りが不明。そこを追求して浅見は老人が内灘に行ったらしいと発見。それだけで私には見当がついた。内灘闘争は私よりも古い事件だが、その事は知っていたからだが。

地元の刑事の妻の父親が、老人の事件以来、何かおかしいと感じ始めていた矢先、同じように砺波で殺される。

内灘にいったときに案内してくれた役場関係の女性から、その母親が若いとき内灘闘争に参加したことを聞いた浅見は、横浜に住む、その母親から話を聞いて、人々の関係が見えてくる。
闘争に参加した同志だった。闘争の挫折以来、音信を断ち、内灘を避けていた老人たちがなぜ、思いでの地に舞い戻ったのか。何がきっかけで行ったのか。

近所でのゴルフ場建設を苦々しく思っていた老人。そこに動機を発見した浅見。破綻寸前のゴルフ場に追加融資した地方銀行の会長。彼こそ、失われたリングだった。闘争参加者を鼓舞したリーダーで、挫折後は金の亡者と化した会長。
昔のよしみで忠告に来た老人をあっさり殺し、それに気づいた別の老人まで殺した会長。その部下で秘密を握りながらも、悪に徹することもできない男を救おうと、浅見は強行策で目的を果たす。

少しできすぎの結果だが、うやむやのまま決着するよりは、読後感はいいな。