はじめての作家さんだが、かなり作品もあるようだが、私が読まないような冒険小説が多い作家のようだ。

今作の主人公は刑事を退職した七十歳の老人。一人娘を十歳で交通事故でなくして以来、夫婦二人暮らし。娘を失った悲しみや寂しさを彼は刑事として働くことで乗り越えられたものの、一人自宅にいる妻は長く落ち込んでいた。そんな妻が好きな料理を縁にして、近所の奥さんたちと週一に、自宅で料理教室を始めて、娘のことを乗り越えた。
定年後の勤めを数年済ませて、年金生活を始めた老人だが、これと言う趣味もなく退屈をもて余していた。そんな彼に妻が勧めたのが、七十で受け取れる都内のバス料金が無料になるパス。二万円あまりの費用はかかるが、元はすぐにとれると手に入れる。

最初はバス路線の多さに戸惑いながらも、適当に乗ってみると、案外と解放感が得られ、楽しみを覚えた。あちこち適当に乗っていても、刑事時代に事件捜査で歩き回った地域や風景に出くわし、感慨を覚えることもある。

そんなとき、あるバス停で何度も見かける不審な振る舞いの老人を見かけ、考え込む。そんな夫の疑問を、妻は鮮やかに謎解きする。それが表題作で、以降、同じようにバス乗車に魅せられた先輩として、その男吉住と一緒にバスの旅を共にするようになる。さらに、昔の刑事仲間だった郡司が同じ趣味を持つと言って、仲間に加わり、三人の老人による都内でのバス旅が行われる。

そんなバス旅で知り合った人から謎解きを頼まれては、妻の助けを得て、見事謎解きを重ねていく。
刑事時代に迷宮入りした事件。その被害者の墓参りに訪れて以来、郡司はなにか気になることを話したくて、主人公に近づいてきたらしい。二人にとっての忘れられない事件のなぞも、主人公の妻のヒントによって、ついに解明される。関係者はすでにないが、二人のもと刑事には解明できただけで、十分心が晴れる。

昔、娘を不注意により死なせてしまった犯人。刑務所を出て以来、いつか復讐しようと付け狙っていた主人公だが。出所以来真面目に更生して働いていること、運転を恐れて事故以来全く乗車せずにいることに、十分償いをしていると判断した主人公は、はじめて監視していた男に話しかけて、今はもう許していると告げる。