久しぶりに時代小説を読んだ。以前はかなり夢中に時代小説ばかり読んでいた時期もあったが、最近は敬遠していた。特別訳もないが、あまり読む気になれなかった。

主人公は掛川出身の浪人、弓削玄之介。今は瓦版屋の書き手として身過ぎしている。瓦版は嘘も混じった派手な記事の方が売り上げも上がり、彼のもとに転げ込む金も多いとはわかっていても、生来の正直者で嘘がかけない。雇い主もその辺はわかっていて、彼向きの話だと仕事を割り振ってくる。半月ばかり仕事がなかったので、いくぶん痩せ衰えてきて、店の上がり框に腰かけると、尻の骨が当たり痛む。
彼は秘剣鐔落としをもつ剣客でもある。戦場往来の同田貫正国は南部鉄のとにかく固い剣。相手と打ち合うと、その剣が相手の剣を滑るように動き、通常は刀を止めるための鐔が切り落とされてしまい、一緒に相手の指も切り落とされてしまう。刀のどちら側かにより、親指か他の四指もしくは一指が切り落ちて、剣を取り落としてしまう。
まともに戦えば分が悪い相手にも通用する秘剣。

さらに彼には旧藩から次々と刺客が訪れる。秘剣によりなんとかしのいできた。そんな彼の前に現れたのは旧藩道場で竜虎といわれた男彦四郎。

最初は玄之介自身にさえ、刺客に襲われるわけがわからなかった。ある日帰宅してみると妻が賊と対峙していた。賊は退けたが妻はすでに切られていて虫の息。詫びの言葉と、え…ど、と言うのがいまわの言葉。義父に会うと、すぐに江戸にたてと言う。

訳もわからず江戸に出て暮らし始めた。旧藩では殿様がなくなり,跡目争いが起きていた。国家老が押す分家、その裏で国家老は医師に命じて殿様を毒殺、若様を病弱にしていた。その医師との念書。同やら妻はその念書を盗み出したらしい。そのありかをいまわの際に玄之介が聞いたと思われているらしい。

瓦版のいくつかの仕事ともに、彼は瓦版屋の若い娘に心が引かれていく。
彦四郎との戦いを終えた玄之介は妻の言葉がようやくわかる。念書は二人の思い出の場所絵馬堂にあるのだと。それを確かめるべく、一年ぶりに掛川に戻る玄之介。そんな彼を単身で見送る瓦版屋の娘縫。半年で戻ると約束する。国家老の野望を潰せば、出世もありうると、瓦版屋の主などは帰る時期はあえて聞かなかったが。妻の思いに決着がついたのであろう、玄之介。