役者志望だった朝倉恒一は、夜間の警備員をしながら、朗読のボランティアをしている。
NHKで、小泉八雲の耳なし芳一の朗読を頼まれた。近所に八雲の墓があると知り、散歩がてら訪ねて、墓前で後半の練習をした。そのときに出会ったのが八雲の研究をしている大学院生の日枝洋子。前半の朗読の際に、資料を持ってきてくれたことで顔見知りだった。
しかも人見知りの恒一が親しみを感じた女性。一目惚れした。彼女と八雲について話をする。互いに似通った感性を持っているようで、話が弾む。やがて二人で八雲に縁がある場所をめぐる散歩を共にするようになる。
都内での散歩のあとには、静岡とか松江、さらにカリブ海のマルチニーク島へ旅行するまでになる。両親もなくなり、先祖も知らない恒一は天涯孤独。一方洋子の故郷は北海道の深川。母がなくなり、父が再婚したために、義母と折り合いが悪く、一人東京で独り暮らしをしている。その父が急死し帰郷した洋子はしばらく音信がなくなり、好意をもつ恒一は気が気でない。ようやく東京に戻った洋子は少しやつれていたが、父をなくした故と思っていた。
プロポーズはしたが少し待ってくれと言われていた。マルチニーク島から帰ったあと、仕事が忙しく半月ばかり洋子と会えなかった。電話しても通じない。ようやく彼女のアパートへ行ってみると、一週間前に心臓麻痺で急死していた。あわてて北海道の自宅におもむき、紹介されて、洋子の恩師と会い、彼女の病をはじめて知る。心臓の病で早死にする家系だった。二十歳までいきられないと言われていた洋子が、好きな八雲に関わる地の旅ができたのは幸せなことだったと言われ、恒一は納得。
八雲風の怪談話を創作して、恒一に聞かせてくれた洋子。彼女の中には先祖の記憶が眠っていて、それが彼女に現れて、そんな話を書いていたのだと言う。そういう点は八雲に似ている。スペンサー哲学の信奉者だった八雲も、先祖の記憶が眠っていて、それが明治日本の文化に触れて、湧き出して、怪談などの創作に結実したのではないか。洋子の先祖はあきらかではないが、語り部だったのではないか。だから似た素質をもつ恒一に親近感を抱いたのではないか。なき父の故郷、九州の秋月に行ってみた恒一は、来たことがないが見た記憶のある風景に出会う。