建築探偵桜井京介の養父となる神代教授の事件簿ともいえる短編集。

煎餅屋に生まれた神代は、大学教授と恋愛結婚をした姉夫婦の養子となり、大学まで進んだ。病弱で気も優しい養父から逃れるようにしてイタリアへ留学し、博士号をとったあともイタリアに十数年暮らして帰国。順調に出世していまや文学部教授として西洋美術史を講ずる独身者。
独身の彼の屋敷には他に二人の居候を抱えている。大学生の桜井と中学生になる少年蒼。何か訳ありの少年だが、この本では詳しいことは語られない。引きこもりになるほどの怖い体験をしたこと、なぜかクリスマスに嫌な記憶があることくらいしかわからない。

四篇の短編と蒼に関する小編からなる。タイトルの風信子は花のヒヤシンスのことで、語源はギリシア神話のナルシソス。神代が忘れていた過去からの贈り物。この謎が解けるか、というメッセージを解明するために、過去の記憶をたどる神代。

心霊写真かと思われた馬の絵。その前で死んだ夫に手をかけたのは結婚に反対した父親ではないかと疑うもと教え子の気持ちに向き合う神代。

凍りついた心を持ちながらも、石にはなりきらないことを神代と約束した蒼が、同じような経験を持つ院生に頼まれて、彼女の兄の自殺事件の謎解きに付き合う第三編。

クリスマスに恐怖を抱く蒼のために、恐怖の原因を探ることよりも、クリスマスにより楽しい経験を付け加えてやろうとする神代を描いた小編。

学生時代の神代が覚えていた奇矯なふるまいが目立った女子大生。彼女が二十年前に自殺していたことに疑問を抱く老教授の願いに答えて、当時の彼女の友人たちを山荘に呼び出して事情を聴く神代。自殺をほのめかしていた彼女は、その前年に友達と一緒に体験したことをきっかけに、生き直すことを決意していた。それを知らずに、彼女の自殺を幇助したつもりの友達たち。
なんともやるせない話だし、今さら罪を暴いても仕方ないかもしれないが、素直に受け止められない。

若くして亡くなった詩人立原道造が建築学科を卒業した建築家だったとか、最後の短編のヒロインが愛唱した詩人中原中也の詩が印象的だった。