著者はテレビ番組の演出家。料理やクイズなど様々な番組を手掛け、多くの受賞歴を持つという。
さもありなん、と思わせる読みがいがあり、感動させる作品だった。

主人公佐々木は最後の料理請負人という変わった仕事をしていた。料理屋を経営したこともあるが、不遜な彼の性格ゆえに店がつぶれ、莫大な借金を背負った。そのために始めた仕事だが、誰にでもできるわけではない。レシピのない料理を食材や味の感想から再現するには、音楽での絶対音感に匹敵する味に対する能力が必要。

死期がせまる中国人の思い出の料理を再現したことが縁で、北京に住む百歳近い中国人の料理人から法外な謝礼で、ある依頼を受ける。

戦時中、もと天皇の料理人であった山形直太朗という料理人が満州に行かされ、関東軍の将校から、中国の満漢全席を凌駕する日本料理の全席を考案するように命令される。いずれ満州に天皇が行幸された際に食べてもらえるようにと。
新婚の妻と満州に赴任した山形には、食材調達のためにと、満州皇帝の料理人だった楊という若者がつけられた。満漢全席にも詳しい楊と新たな全席をつくることに情熱を注いだ山形。
太平洋戦争が始まる直前、完成した全席のレシピの披露を待ち受ける山形に告げられた驚天動地の言葉。

家族にも話さず、山形は共産党のスパイだといって楊を追放し、自堕落な生活のまま、終戦前に死んだ。

完成していたはずのレシピを手に入れてほしいという楊の依頼を引き受けた佐々木は、ようやく山形の遺児幸子を探し当てる。
レシピは四季の四冊で構成され、それぞれ五十一のレシピが書かれている。

山形の妻千鶴が戦後日本に持ち帰ったレシピは春と夏二冊。しかも夏は盗まれていた。犯人は楊が指図したと千鶴は考えていたし、山形を殺したのも楊だと疑っていて、遺児である幸子も同じ思い。
これでは楊の使いである佐々木に幸子が心を開くわけもない。
それでも何度か病床の幸に面会した佐々木は不思議と心がなごむ気がした。

山形親子が暮らしていた満州のハルピンを訪れた佐々木は、山形が食事に出掛けていたロシア系ユダヤ人が経営するホテルで、山形の知られざるエピソードと遺品を手に入れる。そこにあった手紙を読んだ幸は病を押して楊に会うために佐々木と共に北京を訪れ、すべての真相が明らかになる。