東京下町の商店街にあるフランス料理店ビストロ・パ・マル。スタッフ四人で、カウンターに七席、テーブル五つの小さなレストラン。シェフ三舟はフランスの田舎の庶民の料理を修業してきたシェフで、変人だが気取らずに食べられて、身も心も温めてくれる。さらにこのシェフは、客たちが持ち込んだり、彼らにまつわる不可解な謎を鮮やかに解く隠れた名探偵でもあった。

ビストラのフランス料理のこともかなり詳しくかかれているが、あいにく私には縁がない世界で想像さえできず、ただ目を通すだけなんだが、日常の謎的なミステリー部分は面白く読めた。たしか、このシリーズは三作目か四作目か。前に読んだ記憶がある。

タイトル作を含めて八作の短編で構成されている。

同じ商店街に新しくできた自然食品店の主に頼まれた乳製品にアレルギーのあるものの料理。シェフの作った料理に舌づつみをうちながらも屈託のある様子。亡き父親が乳製品を多用するフランス料理のシェフだった彼女は、生前疎遠だったことを悔いていた。父が残した瀬戸物の鍋、それを使って三舟シェフが作った料理により、父親の思いに気づく。

離婚して疎遠だった女性客が訪れる。高校教師と再婚すると言う。父親など要らないと言っていた息子が、すぐにその彼と仲良くなってしまった理由は。最近息子が食べるようになった食べ物を聞いたシェフは気づいた。

なじみの大学教授がふと漏れ聞いた近所のパン屋の新作。かつて留学時代に知り合ったパン屋の女性との苦い思い出がよみがえる。話を聞いたシェフはその思い出が今も続く甘いものだと気づかせる。
妊娠中に感染した女性を、姑の非難から守るために、姑の薦めで食べたタルタルステーキのせいにするために、それを予約し、メニューにのせることを依頼してきた客。人を傷つけるためではなく、守るためのずるさをシェフは心ならずも認める。

金持ちのお嬢様にヴィンテージの高級ワインを提供させて、パーティを開く友人たち。しかも費用に関しては暗黙に騙している。そんなのが本当の友情だろうか。一人密かに義憤する友。その思いはお嬢様に届いたのだろうか。

料理には様々な時代や場所を越えた思い出が、人生が絡まる。ただおいしいだけではなく、そのドラマにまつわる謎が解き明かされるとき、より深く味わうことができるようだ。