魔術が関わるファンタジーのような作品かと思っていたが、むしろ母と娘、姉妹や父親など家族の絆にまつわる物語という方が当たっている。
主人公のトニは三十歳独身の保険数理士。容貌はいまいちだが、頭脳明晰で物事を堅実に合理的にさばくことに長けている。
そんなトニが嫌っていたのが母親のエレナ。ブードゥーの魔術めいた不思議な力を持ち、確かな予言で友人のビルを一流の投資会社の社長に押し上げた。トニが勤める会社だ。

そんな母がガンにより死去。物語はそんな母の埋葬場面から始まる。母の死によりようやくその軛から自由になれると思っていたトニ。美人の妹キャンディには幸せな未来だけは予見できる力が備わっていた。母の跡継ぎは妹だと思っていたトニは、母が遺言によりその力をトニに授けた。時々母に乗り移っては母に代わって不思議力を発揮する小さな六つの神々、そして正体がわからなかった迷子の少女の霊。
そんな神々のひとつが葬式帰りのトニに乗り移る。その間の記憶はない。

それを無視するかのようにトニは将来設計を考える。今から相手を探していたら出産時期が遅くなるし、家族は子供はほしいと、人工受精で妊娠。その直後亡き母の呪縛から自由になったと錯覚した社長の御曹司の上司はトニを首にする。しかも母には未払いの税があり、すべてをかたづけると手元にはなにも残らない。
さらに母がトニたちを生む以前に、カナダの前夫との間に娘をもうけていたことがわかる。いつも金に困っていた母だが、実はその異父姉に金を送っていたことがわかる。

妊娠し将来設計に問題ができたトニは、妹の結婚問題、亡き母の親友メアリーの心配などに立ち向かっていく。

優等生だったトニにはわからなかった妹の苦悩や行動、嫌っていた母の隠された面を知ることで、今の自分とそれほど違ってないことに気づいていく。

いい加減な母のすべてを知りながらも受け入れ、娘たちに愛情を注いでくれた父。母が昔話してくれた迷子の少女を、異父姉のことだと思ったトニは、ついにそれが母自身のことだときづく。それを認め受け入れたとき、トニは娘を生み、新たな人生を始めることになる。人のなかにはいくつもの人格があり、それらをうまくつなぎとめ、まとめていくことで生きている。母も妹も父も私のなかにいた。