わずか百六十頁あまりの薄さで、少しバカにしていた。それなのに読み終えてみると、感動に包まれている。フランスでもっとも権威ある児童文学賞を受賞するのもうなずける。

主人公は十歳の美少年エルネスト。八十過ぎの祖母と、同じ年代のお手伝いのおばあさんとアパートで暮らしている。彼を生んですぐに母親は亡くなり、生後三日で父も失踪。祖母により育てられてきた。
彼の毎日は決まりきった調子で終始していた。学校でも一人、帰宅しても一人。規律正しく単調な毎日。祖母は第一次大戦で亡くなった祖父から届いた秘密の手紙を持っている。縄の結び目が並んだような奇妙な手紙で読めない。

ある日転校してきた少女ヴィクトワールにより、エルネストの世界が変わる。十四人兄弟の十三番目の唯一の女の子である彼女は、物怖じしないどころか、美少年のエルネストに一目惚れしたかのように、積極的に話しかけてきて、彼にまとわりつくようになる。それにより、エルネストははじめて尽くしの経験をするようになる。帰宅前のより道、近所の公園への祖母との散歩、レストランでの食事。彼の家には電話もなければテレビもない。作文を書かされてもいままでは何もかけなかった。

ヴィクトワールのアパートに行き、末っ子の赤ん坊を抱いたり、年上の兄弟と話すことさえ、エルネストにとってははじめての経験で、視野が広がり考えも変えていく。
自宅でも話すことがなかった祖母とも話すようになり、疑問に思っていた父親のことも聞いたが、生きているとだけで、何も話してはくれなかった。

スーパーの書店で偶然見かけた父親の名前。新進気鋭の歴史学者。もしかして、父なのか。迷った末に出した手紙。しばらくして送られてきたのは父が出さなかった息子宛の手紙の束。最愛の妻をなくし、精神に変調を来した父は祖母に息子を任せて逃げ出した。それでも息子を思い書き続けた手紙。父は再婚して、エルネストには兄弟もいる。一年だけフランスにいるから訪ねるように最後の手紙にあったが、読み終えた頃には父はアメリカへ戻っていた。
祖父の謎の手紙は大学教授の解読で読めたが、戦地からのたわいもない内容。しかし使われた切手が今では高価になっていた。その代金で、エルネストは祖母とヴィクトワールと共に、アメリカの父のもとで夏休みを過ごすことになる。