二十代後半で、いまだ代表作もない崖っぷちの声優勇樹のお仕事小説。

青春野球アニメのオーディションから始まる。がんばって演技したつもりだが、手応えはない。なにせライバルが多い。決まったのは同じ事務所の先輩平川。主役を射止めたのは同世代では数々のアニメに出ている人気声優大島。マドンナ役はこちらも人気女性声優椎野。今度もダメだったかとあきらめていた勇樹にも役がついた。事務所の熊倉専務の根回しで、安いギャラで先輩平川と抱き合わせで採用されたらしい。それでもシリーズアニメのワンクールにでて認められれば、先行きも見えてくる。ついた役は椎野演じる野球部マネージャーで影の監督と言われるマドンナ薫が飼っている柴犬役。その他にいくつかのちょい役の声もやらせてもらえる。

仕事が始まると,経験不足なため,なにかと足を引っ張り、やり直しをさせられてばかり。そんな勇樹になにかと声をかけてくる大島にはじめはとまどっていた勇樹。

大島が胸につけている風車のバッジがヒントだった。声優が発声練習に唱える文句のひとつに、歌舞伎の外郎売りの台詞がある。そのなかにがらぴい、風車という言葉がある。バッジはその風車だと。そして彼の口から半ば忘れていた友達の名前が出てきた。

勇樹は子供の頃長いこと入院生活を送った。そんな退屈を紛らせるために、同じ部屋にいた仲間と声優の真似事をした。声優志望のエミリンが教えてくれて、発声練習や簡単な芝居もした。同学年にカックンとピカリンもいた。いち早く退院した勇樹は、以来それを忘れていた。大島は親の離婚で名前が代わり、あのカックンだった。エミリンが亡くなり、その両親が記念にとつくってくれたバッジ。勇樹は大島から今渡された。大島は前から勇樹に気づいていた。いつか子供の時みたいに一緒に声優をしたいと思っていた。

気をとり直した勇樹は与えられた役に専念する。誰にも愛される柴犬になりきって声を出す。勇樹の口癖は声で世界を変える。

悩み苦労しながらも無事に仕事をやりとげた勇樹。共演者とも仲良くなり顔も売れた。しかし人気声優である仲間は次の現場へ向かうが、勇樹には何もない。続編アニメが作られるかどうかも未定。

事務所にしりを叩かれて、各種のオーディションに出たり、バイトに励んだり、そんななかで仲間内で新たな仕事を立ち上げたり、次第に成長していく声優勇樹。

興味深く、面白かった。