『夜の写本師』に始まるシリーズファンタジー世界とは、異なる世界を描いたファンタジー。

あとがきによれば、著者が十代の頃に生み出したキャラクター、直情型のデリン翁、理想の男で魔道師タゼーレン、その相棒で元気なオナガン。王都の鐘を素手で殴って破壊したデリン。瓦礫の上に建つ都。二つの民族の確執。そんなモチーフもあったものの、結局まとまった物語にならぬまま、残されていた。

これも出そうと言う編集者の言葉で、一念発起して書き直してできたのが本書。
大陸の北西を占めるカーランディア王国は、土着の民で魔法の才をもつカーランド人と、数百年前にはるか西の海上からやって来た征服民アアランド人が、平穏に暮らしてきた。
そんな平穏を壊したのは現在の王によるカーランド人の大量虐殺だった。見せかけの平和が崩れたとき、王の側近だったカーランド人の大魔法使いデリンは、両民族の平和の象徴であった鐘を打ち砕いた。四百三十九人の魔法の才あるカーランド人によりつくられた鐘は、その数に分裂し、大陸の各地に飛び去っていった。それと同時に、鐘が封印していた数百年前に暴虐な王のために家族を失い、恨みを抱いた闇の歌い手と彼が闇のそこから召喚した魔物を解き放った。それらはアアランド人を襲う。

アアランドの王は飛び散った鐘により命を落とし、後継たる二人の王子イリアンとロベランは鐘の一部を体内にとどめながら、鐘を破壊した魔法使いデリンの捜索と、体内から鐘を取り出す方法を求めて、カーランド人を追い詰めていく。

翠石の歌い手アクセレンと、弓にしか才を見せない息子タゼーレンは、王国を追われたカーランド人とともに、東方のカーランド人のかつての都を目指す。

狂暴な将軍ロベラン王子に追い詰められ、父を失い、絶望したタゼーレンは魔物カイドロスに飲み込まれ、恨みのアアランド人を襲うようになる。

カーランドのいにしえの都の図書館に残されていた魔が歌を再現する才を持っていたのは、魔物に封じられていたタゼーレンだった。

タゼーレンが胸にもつ鐘の欠片により、その使命に目覚めたとき、両民族の中にわだかまっていた暗黒部が霧散した。

両民族とともに、いにしえから大陸に生きてきた漂泊の民ガイエールをも入れた新たな秩序が作られ、両民族の血を引く若きオナガンを新たな王にいただいた新生王国が作られていくことになる。