主人公は還暦間近な病院の手伝いをする女性。定年後も働くことになっているため、有給消化の名目で強引に休みを取り、一人で東京本郷にやって来る。

実は十年前に夫が失踪していた。近江商人の家柄に生まれながら、親に反発して料理人になった夫は、近江料理の店を開いたものの、倒産。他店で働き借金を払い済ませたあとに,失踪。
そんな夫からの葉書が夏に届く。未だに籍を抜いてない妙子は、還暦を前に、夫を探そうと上京した。しかし、財布を落としたことが縁で、滋賀県人に安価な宿泊施設を提供する近江寮の管理人安江と知り合う。彼女が拾ってくれた財布に現金だけはなかった。途方にくれた妙子はしばらく近江寮にやっかいになる。身なりは派手だが、料理も掃除も苦手な安江。子供の頃から賄いをしていた妙子は、安江に代わって食堂で料理を作り始める。

空き缶拾いのルンペンが、夫が持ち出した妙子の写真を持っていたことから、夫の消息を聞こうと安江と追いかけた弾みに、安江は腕の骨にヒビが入る。働けない彼女の代わりに、管理人代理として働き始めた妙子。寮の利用者や安江の姑らと料理を介して交流を始める。さらに夫が働いていた料理屋などにも出掛けていき、夫の消息も調べ始める。

妙子の近江料理も交えた献立が、外人観光客にも評判となり、食堂は見違えるほど繁盛するが。

安江の怪我も癒えたのを期に、妙子は滋賀に戻る。食堂は元の木阿弥となり、外人客も遠退く。そんなある日、安江から姑が妙子の料理を食べたがり、食事をしなくて体力が落ちたと聞いた妙子は、近江寮食堂に戻ることを決意する。料理をつくって客に喜んでもらう。料理屋を経営してるときには忘れていた原点に気づいた妙子。

今も東京にいる失踪した夫もアル中から立ち直り、頑張っていると、夫が勤めていた料理屋の社長から聞いた妙子は、夫に食堂へ来てほしいと伝言を頼む。

半分ボケてはいたが、正気の時には回りの人たちに適切なアドバイスをして、勇気づけていた。

そんな安江の姑を忍ぶ夕べを、親しいものだけで食堂で行った夜、ついに失踪した夫が食堂を訪ねてくる。会う場面までは描かれていないが、夫婦で食堂を切り盛りしていく、なんて展開があってもいいかもしれない。還暦過ぎた老夫婦が切り盛りする食堂もいいかも。