居眠り磐根シリーズ最終の第五十一巻。これで磐根ともお別れか。あとがきで、作者自身自作を通読したことがないと言う。五十代に書きはじめて、七十代に書き終わる十五年にわたる長い物語。

私が佐伯さんに出会ったのは、すでに完結している密命シリーズが始まったとき。第一巻を読んで、気に入ってしまった。当時は時代小説が好きな読書の中心だった。池波正太郎に続いて夢中になれたシリーズ。

前巻で、江戸における磐根の生涯のあれこれが完結したのに対して、今巻では故郷である豊後の国の関前藩での磐根の生涯が決着した。嫡男の出奔に代わり、藩政のために尽くしてきた父親が、唯一の心残りを磐根の力で解決して、あの世に旅だった。前巻の最後で、磐根の女房おこんの父親が大往生したのと対照的な構成になっている。磐根の生涯に関わりが深い二つの地、関前と江戸。双方で決着をつけないと、物語を完結できないと感じた作者が二巻同時発売で完結させたのだろう。
国許関前で再度湧き起こる藩政の危機。その解決のために磐根が画策したのは、老いた藩主と国家老を共に代替わりさせて、一気に禍根を断つこと。

そして最後には磐根の後継である嫡男空也が若干十六歳で武者修行に旅立つ。しかも他国ものを一切領内にいれない鎖国の藩、薩摩島津藩。最初から過酷な道を選んだものだ。そんな空也が出会った遊行僧は、尊敬する僧、平安時代の市の聖と呼ばれた空也上人、と同じ名前を持つ若者に、捨ててこそ、と言う言葉を手向けた。

磐根の半生が始まった陽炎の辻。上意討ちとはいえ、友であり婚約者の兄を討ち果たした。それが物語の発端。だから第一巻のタイトルも、陽炎ノ辻。また最初から読み直してみたい、磐根の半生にわたる歩みをたどり直してみたい気もするが。さて、どうかな?

昔、蔵書をまとめて処分したことがある。その際も、再読したいと残した池波正太郎さんの三大シリーズの文庫本。結局、一度も再読することなく、今日に至る。どちらかと言えば、ベストセラーや話題の本は読まないで、気に入ったものばかり読むため、好みの範疇が片寄っていると思っていたが。今はそれもかなり広がった、というよりは移行したと言うべきか。かつて夢中だった本格推理、時代小説は最近はわずかな例外を除いて皆無。この先、磐根を再読することはあるかな?