第ニ十四回鮎川哲也賞受賞のミステリー。事件の捜査官でもなく、当事者でもない人物が、理知的に事件の謎を解く、安楽椅子探偵ものといえるか。

文系の大学院に通う主人公中央、アタリアキラは、レトロなビリヤード場のバイトをしている。元世界チャンピオンのハナブサが経営するビリヤード場。

ビリヤードは素人目にはただの玉突きだが、実際は奥が深く、理論的な考察が必要なゲームである。だから、数人の常連客たちはいつも議論しながらプレイしているし、時には議論に白熱して、プレイを忘れてしまうことも。プレイをしなければ当然料金もとれず、店の売り上げはないのだが。

そんな常連客の誰かが遭遇した殺人事件。知り得た事実から、犯人探しの議論は白熱するが、いつも傍観者のように話を聞いているバイトのアタリは、閃きを起こし、事件を解決してしまう。

その閃きのきっかけになるのが、ビリヤードの玉の動きや専門用語。謎は大したものではないが、閃きのきっかけとの関連が見事に決まっていて、気分がいい。個性的な常連たちやその話にユーモアがあり、読んでいて楽しい。

四話収録されていて、タイトルがビリヤード用語になっている。
第一話では、近所のレストランで起こった殺人事件に、ビリヤード場のボーイ兼弟子であるカネちゃんが巻き込まれる。アタリの大学院の仲間で、合コンオタクの日下も登場し、常連となる。

第二話では、常連の会社員里見のビルの屋上から転落死した男の事件が議論になる。

第三話では常連の年増のマドンナ木戸の姉さんを目当てに通う、薬剤会社勤務の霞が浦が、昔話をしたことがきっかけで、彼の悪事がアタル君に看破されてしまう。

第四話では、ビリヤード台のある豪邸を購入したタレント女獣医が、ビリヤード台の上で死んでいるのを、たまたま訪れたハナブサが発見。第一発見者で容疑者となったオーナーを助けようと、議論に花を咲かせる常連たち。最後には、ビリヤードの用語が引き金となった殺人事件をアタリ君が解明する。

鮎川賞というと、本格ものというイメージで、最近は敬遠するばかりだが、案外に読みやすく楽しく読めた。続編が出るのか、あるいは違った装いで、第ニ作が出るのか、楽しみだな。

北村薫、近藤史恵、辻真先三氏が選者で、全員一致で決まったとか。本格ものは苦手だが、それ以外の過去の受賞作もまた何か読んでみようか。七河迦南さんの『七つの海を照らす星』なんかどうかな?