予想外によかった。身に染みる話。

私は読んでないが、『完全なる首長竜の日』で評判になった著書。先日読んだ『鷹野鍼灸院の事件簿』が気に入って、著者名が頭にあったのと、タイトルに引かれて借りた。

東京多摩にあるマンモス団地。高度成長期には若い核家族で賑わった団地とはいえ、ひとつの町でもあった。

それが今は居住者の大半が高齢者の斜陽団地。そこを舞台にしたいくつかの住民や家族の物語。

団地の近くには神社とその裏山、通称ひょうたん島がある。そこは玉石垣で囲われて、立ち入り禁止になっていたが、子供たちには通用しない。

仕事人間の夫に腹をたて、老いた両親が住む団地に来た遥子と小学生の息子尚之。神社は異空間の地なのか、神隠しが多いという。頂上に先に上がった尚之が行方不明になり、大騒ぎになる。尚之はなんと過去の世界へ迷い込み、小学生の母親と出会う。神隠しにあってもかくれんぼの呼び声を互いにしているともとに戻れる。そう聞いた過去の母親はタイムカプセルにそれを書き留めて、現在の母に送る。事件がきっかけで家族の絆を取り戻した家族。

団地の隅に据えられた廃車は実はその昔、団地に設置されたシェルターだった。そこに今住むホームレスは、家を出た父親だと気づく若者。

今は団地在住の釣り仲間で独占しているため池。昔のテキヤの隠居が一人釣りを楽しむ。その見事な釣りさばき。子供にも自由に釣りをさせたいと公共機関に陳情したら、逆に危険だと誰も入れなくなってしまう。

親子二代にわたって会いまみえたカメ、マリラ王。

かつて一世を風靡した悪役レスラーのなれの果ては車イスの気むずかしい老人。彼の相棒だった黒人は絵描きとして再生して、昔馴染みを訪ねてくる。

娘のためにと書かれた父親の童話。虫姿の魔法使いにより小人になった幼稚園児たち。魔方陣を描いて、蝶に変身して空を飛ぶ。娘はそれを真似て転落死。一人童話を書き続けたものの、処分しようとした原稿を見つけた作家志望の女子高生。

保育園の倉庫にあった不思議な階段。支柱もない螺旋階段。神社に来ていた宮大工棟梁が残したもの。偶然知り合った将来の嫁に贈った木彫りの機関車。

時代が変わり世が代わり、今は団地も取り壊されつつある。満たされない思い出だが、目を閉じれば、あの団地へ、あの人たちのもとへ戻ることができる。
彼らにとってはその団地がふるさとなんだろうな。