何とか最後まで目を通したものの、何がわかったのかははっきりしない。

「児童文学の秘密の力」とサブタイトルにあるこの本は英文学、特に児童文学を大学で講ずる著者が、児童文学専攻生に大学で行う文章作法での体験からヒントを得た論考。自由に随想などを書かせると、時に感性に富んだ文章も書く学生だが、はっきりしたプロットをもつ物語を書かせるとまったくできない。そんな学生も児童文学の作品を読ませると、あらすじや簡単な内容紹介では興味を示さないのに、実際に接すると、圧倒される。児童文学の持つ秘密の力を実感させる。

それにより有名な作品には著者固有の問題とも絡んで、必然的に児童文学と言うスタイルをとった必然性があると思う。

そうした秘密の力を解明しようと取り組んだのが、四人の児童文学作家。女性ばかりなのは偶然。

四人とも子供時代に不幸な体験をして、それが大人になってもトラウマになっている。児童文学を創作することで、そのトラウマが癒されたり、願望が実現した。そこに児童文学特有の力があるのではないかと。

小さな家シリーズのローラがその作品を書いたのは年老いてからであった。実人生は物語に描かれたものほど幸せなものではなかったらしいが、その人生を振り返り、物語として生き直すことで、ローラは意味を付与したとも言える。一見主人公はローラでありながら、実は年老いたローラが当時の子供の目線で書いていて、年を経るごとに変わる視点が一定のリズムを与えている。

裕福な家に生まれながら、女性であるために拘束されて孤独に育ったポターは、他人にはわからない暗号で日記を書いていた。ピーターラビットなどの創作により、絵が暗号の代わりになり、自由に表現できるようになり、しかも印税を得て、親から独立することができた。

児童向けの魔法物語で後世に残ったネズビットは、希望とはかけ離れたものだった。詩人、社会活動などに意欲を持ちながら失敗し、金のために執筆し、評価を得たが満足していなかった。本人の気持ちとは別に、満たされない現実の願望は作品のなかで到達されていたと著者は考える。

病のために足が不自由で部屋に隠り勝ちだったサトクリフが救いを見いだしたのは、自分と同じような拘束を持つ人間がいかに生きたかを描いた歴史物語だった。後退する時代に生きる若者、未来がバラ色でない若者がいかに生きるか?自分の役目を知り、遂行する。そんな主人公を動乱の歴史の舞台で描いた。