たつみやさんははじめて読む作家だが、名前はよく知ってる。積んどく本のなかに『ぼくの・稲荷山戦記』があるし、古代日本が舞台の神さま三部作とか、月神シリーズなどに興味があり、前から読んでみたいと思いながらいまだ。シリーズものを読み出すと、全部読みたくなり、それは結構大変な気がして。

単発なら読みやすいと借りたこの作品。実は登場人物に興味がわいて借りた。

主人公の悟は三年生。夏休み、父の仕事が休み一週間を父の生家で過ごす。京都東山にあるかなり広い屋敷。土塀に囲まれた母屋も庭も広く、蔵や井戸もある。

仏壇のなかに先祖の幽霊がいると聞き、会いたくなった悟は、井戸にまつわる伝説と、いとこから聞いたお化けに興味を持ち、井戸に潜入を試みる。

平安時代の公家で歌集百人一首にその歌も残る人物、小野篁タカムラ。伝説では夜な夜な近所の寺の井戸を潜り抜けて、冥界に赴き、そこでも役人を勤めていたという。
悟の亡き祖父は篁の研究をしていて、彼が冥界に行くとき、祖父の屋敷の井戸も使われたという。少年時代の父も興味を覚え、井戸に降りたはいいが上がれず助けられたという。以後、井戸は埋められて水はない。

悟は反対されると思い、誰にも内緒で、スコップを持ち、部屋の高さほどの深さの井戸に飛び込み、埋まった土を掘り出してみる。

スコップに当たったのは父から話に聞いていた石塔。そこで水晶でできた勾玉を見つけ、水で洗い願いを唱えたら、奇妙な少年が現れる。同い年くらいだが、公家のような衣装。しかも実体がない、言わば幽霊。子供には見えるものもいるが、大人には見えない。友達となり、勾玉の力で一時的に幽霊になり、空を飛び、屋敷の屋根で騒いだりして楽しむ。
役に立たない井戸を伯父が埋めるつもりだと聞いた幽霊のタカムラは、それでは帰れなくなると嘆く。勾玉の力で井戸をもとの姿に変えようとした悟だが、なぜか水か溢れてきて、気持ち悪い虫がわいてくる。それに触れると姿が消えてしまうという。タカムラが虫にとりつかれたが、勾玉をのみこんで幽霊から戻れない悟にはどうしようもないと思ったときに現れたのは、青年の公家。彼こそ、本物の篁で、幽霊のタカムラは水差しがつくも神となり、篁に童子姿で仕えていたらしい。ともかく篁の力で、悟も井戸もタカムラももとに戻り解決する。井戸は水が戻り、そのまま残されることになり、番人もつき、悟とタカムラの文通を取り次いでくれる。