『未決』『髪結』に続く『遺文』にて、吉原乗っ取りを策す陰謀は潰えた。前作で敵に捕まり、瀕死の重傷を負った吉原会所の頭取、四郎兵衛の傷がようやく癒えたところから、今作は始まる。前作で町奉行に呼び出され、身を退くことを求められた四郎兵衛。ある謎の人物に引き合わされて、自己の主張を断念した。その人物の正体が明らかになる。

四郎兵衛に用意してもらった一軒家の幹次郎、汀女の新たな住まいへの引っ越し、下女が雇われたことなども描かれていて、しばし殺伐たる事件のことを忘れさせてくれた。

久しぶりに登場した身代わり左吉がもたらした一枚の書き付けにより、事件の、陰謀のもとが明らかになる。

吉原は最初、日本橋近くに作られていて、のちに明歴の大火のあとに浅草に移転した。実は大火以前に幕府は吉原移転を計画していて、言うことを聞かない吉原に対して五箇条遺文なる契約書を出していた。左吉がもたらした書き付けに記されていたのは、どうやらその契約書に署名した幕府側の人物たちの名前だった。四郎兵衛はそれをみて、幼い頃に祖父から聞いたそれを思い出した。

陰謀はその契約書に追加条項があり、それに従えば吉原はさらに移転させられるというもの。契約書の原本は、大火で焼尽したと思われていて、確かめようがなかった。しかし、四郎兵衛はその吉原側の原本がどこかにしまわれていると考えた。そして、昔からなぜか毎年寄進していた鎌倉の禅寺建長寺にあるのではないかと、密かに幹次郎と二人で鎌倉へ向かう。

こうして、敵方の首領御広敷番之頭まても鎌倉に呼び出して、彼の腹心たちや刺客たちを幹次郎が次々と倒していく。

最後に明らかになったのは遺文は残っていたこと。追加条項はなかったこと。そして幕府の密偵の元締めが、なんと吉原をはじめた庄司家の子孫だった。四郎兵衛がその人物を、独特の家紋の着物をきた謎の人物にぐうの音も出なかったのは、それが今はあるかどうかもわからない、吉原の創始者の子孫だったから。歴史上、庄司家は享保年代までは吉原の名主をつとめていたが、その後追放されて世間から消えたらしい。
幹次郎が敵方を次々と倒していくのは痛快ではあるが、少し強すぎるのではないかなどと、思ってしまった。でもだからこそ安心して読めるのだが。