小泉八雲については前にもいくつか読んでいたし、それなりに関心のある人物なんだが。この作品は妻となったセツの目から見た夫婦のことを描いた物語。
著者は児童文学の作家。『怪談』で有名なラフカディオ・ハーンがのちに日本に帰化して小泉八雲になったこと、その妻セツが松江の人だとしか知らなかった著者が、セツの少女時代の話を聞いて興味を覚えた。いつも周りの人に、面白い話を聞かせて、とねだる少女だったと。いわばたくさんの話の種を持って成長した少女がどんな人生を送ったか?それを書いてみたくなったと。児童文学の雑誌に連載されたことで、わかりやすい。

セツは松江藩重役の家系だが、維新とともに変わった。父親が始めた織物工場は数年で倒産。セツ自身は幼い頃に稲垣家に養女となる。十八で鳥取の出の若者を養子にして結婚。しかし貧乏暮らしが嫌で夫は家出したまま。養父金十郎は商売に手を出したものの、だまされて、有り金はたいて身の潔白を裁判で引き出したきり働こうとしない。養母の仕立て物とセツの機織りの内職で暮らしていた。
ハーンが松江に来た頃町の人々には好意的に迎えられたようで、養母からも噂を聞いていた。ある日、昔実父の工場に勤めていた泣き虫のおのぶと言われた眼病持ちの少女の成長した姿と出会う。
彼女も没落して母と知り合いの宿屋で働いているとか。そこにハーンが滞在していた。そして宿から出て、湖の見える京店の二階に引っ越した。そんなハーンの身の回りの世話をするものとして、おのぶはセツを推薦したとか。お姫さまだったし、お話が好きなので、昔話や城のこと、殿様のこと、出雲の昔話をセツなら話せると。

おのぶはいわばハーンとセツの出会いをつくった恩人と言える。実母や養父母や弟の世話までしている孝行娘で、大家族にいたから身近な気配りができる。さらに話も知っている。

会ってすぐ二人は互いに好感を抱く。松江時代から熊本に行くときには、給料が増えたからと、ハーンはセツの実母や養父母など大家族を引き連れていく。それだけ互いに好意を抱いたのだろう。戦争の影やお雇い外国人へのしうちにこりて、やがて神戸へ。養父母は松江に帰った。生まれたばかりの長男。やがて神戸の外国人に我慢できなくなり、東京へ。生まれた子のためにセツは生家の籍に戻り、ハーンを養子にする形で帰化した。知らなかったハーンの妻や家族のことは興味深い。ハーンの物語の背景に夫婦愛があったんだな