今読み終えた。静かなこの深夜にどことなく似合う本だな。

フリーの編集者船木はおもに非売品の豪華な装丁の本をつくっている。今度依頼されたのは発酵食品。に本の伝統的な発酵食品の製造過程から出来上がるまでを本にして永久保存すると言うもの

鮒鮨、鰹節、酢、味噌などを伝統的な手法でつくっているメーカーを日本各地に訪ねて取材し、写真に納める。材料の入荷から製造、そして寝かして発酵させていると、何か月もかかるし、一年がかりのところもあり、何度も訪ねていく

さらに本の装丁の材料から活字の種類などとすべてを決めていかなければならない。

地道だが確かな手応えのある仕事。ただ今の依頼人は高齢だし、いつまで続けられるかと将来の不安もあり、船木は迷ったりもしたが、各地の取材を通して仕事への意欲を覚え、天職にしようとまで思い出す

この話は、そうした船木の仕事が中心なんだと思っていたが、むしろ彼を取り巻く人々とそれに繋がる人々とのドラマを描くのが目的なのかもしれない

船木が生まれる前に、不幸な偶然で亡くなった父親、その加害者となった男が、贖罪のために亡くなるまでの三十年あまり遺族に金を送り続けた

船木の祖母が生んだ子を置いて離婚していたこと、その子がすぐ隣の町に住んでパン屋をしていて、祖母がよく買いに行っていたこと

船木の知り合いの料理研究家にまつわる話。彼の父親が人妻と心中したこと。彼女が残した息子と知り合い、会っていたこと

阪神大震災に被災した話

発酵食品の話も出てくるが、読んでるうちに何か背景に退いてしまうきがした。でも発酵活動している微生物の営みが、これらの人々の生きざまや繋がりを暗示しているのかもしれないな。

ベテラン作家らしく、読みやすく、退屈することもなく、上下二冊を一気に読めた。穏やかな気持ちで味わえる話だった