なかなか味わい深い作品だったな。音楽を言葉で表現できるかと、登場人物の一人が言っていたが、あるいはこの作品そのものが答えのひとつかもしれない。別に音楽を語っているわけではないのに、背後から聞こえてくる音楽が聞こえるような気がした

創立30年の鹿間四重奏団がこの日ラストコンサートを迎える。四人の演奏者、彼らと関わった女性、彼らと同じ時を刻んできたコンサートホールの人々。彼ら一人一人が思いを語りかける章で構成されている

異色なのは若い頃に音楽をかじっただけの主婦が、ガンで寝たきりの姑の介護の合間に、夫に気晴らしを勧められて、偶然見かけたパンフレットの四人の風貌にひかれて聞きに来ていた。初めてのコンサートなのに感動してしまう。開演前に言葉を交わした男性に、家のことは忘れて、一晩だけ音楽のなかに入ってゆきなさい。そうしてカルテットの最後の時を楽しんでください。長年ファンだったと言うその男の言葉を思い出しながらも、断続的に家族のことが気になる。普段は逃げ出したいと思っていたのに、音楽に感動しながらも、家族への思いを再認識する

この主婦は作品の中では脇役なのに、なぜか印象深い

第一バイオリンの鹿間。音楽家の力量と共に女性問題でも賑やかで新聞沙汰になったことも

チェロリストの伊井山は鹿間の音大の同期生。すでに75歳。精神的な衰えを感じて退団を持ちかけたら解散することになった。性格も穏やかだし、年若い画家の妻もいる。子供はいないが、四人の中で唯一家庭がある。とはいえ、世界各地を演奏旅行する音楽家では家にいることも少ない

ビオラは遼子。ビオラ奏者としては世界的に有名で、大柄ではっきりした目鼻立ち。独身。かつて鹿間と関係があったこともあるし、親友が鹿間と関係しスキャンダルを起こしたことも。

第二バイオリンは文字、まだ若い美男子。山形の職人の家庭で育ち、偶然聞いた音楽からバイオリニストに。前にいた女性が妊娠し、退団のあとに加わった。それでも十数年たつ。ファンもいるが独身
あと伊井山の妻。ホールのマネージャーなどはわかるが、クラッシックを聞きたいと、このホールの清掃人になった女性もいれば、彼らを取材してたタウン誌の女性編集者など、彼らを取り巻く人々を描きながら、作品になっている

著者は有名な詩人とか。エッセイや小説も書いていて、文学賞も得ているとか。またなにか読んでみようか