よかったな。心暖まるいい話だ。

最初目次を見てびっくり。ずらりと名前が並んでいる。プロローグのあと第五章まであり、エピローグで終わるのはおかしくないが、各章に人名が並んでいる。登場人物だが、つまりはその名前の人物が話手として書かれた文章が並んでいる訳なんだ。

だから同じエピソードを書いていても、人名が変わると視点が変わるわけで、それだけ厚みのある話になる

巻末に津軽百年食堂リスとなるものがあり、実在の十店が紹介されている。青森県では、三世代、70年以上続いている大衆食堂を百年食堂と呼ぶのだとか。
物語はそんな食堂を舞台にしている。津軽そばのお店

プロローグでは、三代目で還暦を過ぎた哲夫が語り手。明治時代に祖父が開いた店。二代目の父は放蕩で、ために哲夫は小学校に上がる頃から店の手伝いをさせられていた。そんな店も創業から百年の節目を目前にしてる。娘はバツイチで近所に独り暮らし、息子は東京で働いている。無理に跡を継がせる気はない。豊かな暮らしではないが、昔からの味を守り続け、お客の気持ちを大事に勤めてきたことに後悔はない。

第一章に最初に登場するのが初代の賢治。当時の弘前は右肩上がりの町。生まれつき足の指がない賢治はまともに走ることもできず、いじめられていた。そんな賢治を慰めてくれた母親。その母が亡くなったとき、家族を養うために始めたのが、馬車道の交差点での露店のそば屋。行商の娘から買った鰯の焼き干しがそばつゆの出汁。味とともに酒を出したことから人気の店になる

そんな賢治が行商の娘とよとの淡い恋を成就させて開いたのが大森食堂

次に登場するのが哲夫の息子陽一。28歳で今はフリーター。バルーンアートで食っている。そんな陽一がこの本の中心のようだ

やがてカメラマン志望で同郷の七海と知り合い、恋人となる。そんな二人に陽一の姉や幼馴染みが絡んだり、ふるさとの桜祭りに帰って出店の手伝いをしたり、七海が来たりと、二人の様子がほほえましく楽しかった。

そんな二人が四代目を次ぐかのような雰囲気で終わってるが、どうなるのかな

文庫版のあとがきによれば、この本のあとに書かれた『青森ドロップキッカーズ』をコラボしたような作品を青森三部作として書いているとか。なんか楽しみだな。2010年師走のあとがきだから、もうできてるのかな?あれば読んでみたいな