「少しだけ説明をしておくとね、厳密に言えば運命を変えることはできないんだよ。未来から過去に戻って、いくら手を加えたって、未来は変わらないってやつ」

私はあまり詳しくないが、タイムパラドックスの問題か。

「でもね、過去をいじるのではなくて、ある期間ごと切り取って、書き換えることは出来るんだよね。過去だけじゃなくて、今、そして未来に至るまでいじっちゃうことはさ」

私はなんとか理解しようと努める。

カワサキさんは褒めてくれるが、私は賢い方ではないと思って生きている。

「どうやって?とか聞くのはなしね。俺がやるわけじゃないし。天界のやつらがやることなんだから。まぁ部署によっては俺らの側にも詳しいやつはいるけど、俺はさ、監視委員会の中でも事故処理班だから」


「事故処理班?」

「三久ちゃんの会社にだって色んな部署があるだろ?営業とか広報とか?俺らのとこもそう。原因調査班とか、交渉班とか。ヤツらは、あえて三途の川まで行くんだぜ。俺は絶対に飛ばされたくない部門だ。殉職なんてありえねーっつーの」

「そんな危険なことを…何のために…」

「まぁ人によるわな。やりがいのため、金のため…危険手当付くからな」

ふと、カワサキさんはどうしてこんな組織にいるのだろうと思った。

その疑問を口にするよりも早く、

「原因の調査はもちろん、君たちがどうやったら元に戻れるかも調査中だ。なるべく急ぐよう全力を尽くしているから、もう少し待ってほしい、それから…」

カワサキさんは周りを見渡した。

向かいのベンチの男と、鴨を見ていたカップルがこちらに軽く頭を下げた。

「一応君たちの身辺警護もさせてもらっている。今回の一件に天界が組織ぐるみで関与しているとしたら、君たちを生かしておくのは都合が悪いと考えているかもしれないからね」

数人の白衣を着た人たちが近づいてきて身構えたが、

「大丈夫、ここの学生だよ」

水質調査か何かを始める。

池は研究に利用されているようだ。

税金の無駄遣いというわけでもなかったらしい。

「そんなに警戒することはないと思う。現時点で進んだ調査によれば、個人的な犯行なようだし、君たちを処分するとなるとさらに不正を重ねるわけだから。そんなことしたら、当然、俺らが黙ってないからね」

「あなた方はそんなに権力があるんですか」

「あるよ」

強い口調でカワサキさんは言った。

「さっき何のためにそんな危険なことを?って三久ちゃんは聞いたけど、大げさでもなんでもなく、世界の秩序のためだから。世界的な組織だよ。まぁ、警察とかと違って秘密裏な組織だしね、一般市民に対して身分を証明できるものは何もないけどね」

「秘密裏な組織のことを私に話して良いんですか?」

くっくっとカワサキさんはまた笑った。

「相変わらず鋭いね、三久ちゃんは」

「大丈夫さ。三久ちゃんが誰かにこのことを話したところで精神科に送られて終わりだと思うし。助かる手段を他に持たない三久ちゃんがあえて俺らの活動の邪魔をするとは思えないし」

私のことを賢いと褒めるカワサキさんの方が何枚も上手だった。