私はまだマシな方かもしれないと、考えたくないくせに考えることがある。

少なくとも、有澤舞花より、少なくとも島谷春輝より、私の状況はマシと言える。

彼らは、自分の体の無事を知らない。

その点私は、己の肉体が維持されていることを知っている。

会ったこともない島谷さんを信じるとするならば、至って健やかに私の体は存在し続けている。

人間関係も現時点ではさほど壊れてはいないという。

島谷さんが努力してくれているおかげだ。

だからこそ、せめて私は、舞花の身体を、立場を、私なりに守っていこうと思っている。

それを使命と思うことで、出口の見えない現実を、生きていくことができていた。

そしてもうひとつ、私を生かしてくれる存在があった。

「アリー! アリーのクラス、今日英語小テストだったでしょう? ねぇ、問題何出たぁ?」

私に心を許してくれるアイアイだ。

「問題用紙と回答用紙別じゃないもの。回収されちゃったよ。」

「えー、何か思い出してよー。穂花、この前赤点だったからヤバイってー」

他人のものとはいえ、何気ない日常ほどありがたいものは無いのだと気付かされる日々を送っている。

そして、何気ない日常を舞花として過ごせば過ごすほど、私は本来の、風間三久としての日常を取り戻したいと願うのだった。