「あなた、舞花じゃないわね!」
舞花の母は声を荒げ、私の顔を剥いだ。
などという展開はなかった。
冷静に考えると、娘が別人になるなど、甚だ現実的ではなく、思いつきもしないだろう。
「舞花、お友達と一緒の高校に行きたかったんじゃない? もしそうならね、ママからパパに話すわよ。無理してセイジョに通う必要なんてないわ」
セイジョを脳内で漢字変換するのに時間がかかり、その意味に思い当たって愕然とした。
聖真女子学院。
全国に5校くらいある、名門校だ。
5校のうち舞花が通うのは何処にある聖女なのだろう。
いずれにしても、こうして入寮前日にホテルに宿泊しているということは、舞花は地元から離れて進学するということではないだろうか。
これは、舞花としての記憶を持たない私にとっては好都合だと閃いた。
「大丈夫、ママ。私、大丈夫」
私は微笑みながらそう告げた。