「舞花?」

私に向けられた声は女性のものだった。

ゆっくり目を向けると、ホテルの寝間着姿の女性が居た。

「舞花? 気分は?」

「混乱している」と正直に言うわけにはいかないという判断は働いた。

この女性は、有澤舞花と以前から面識があるはずだ。

同室に宿泊しているのだし、名前で呼びかけてきた。

「私は有澤舞花ではないが、有澤舞花として生きることになってしまった」などと言っては、頭がおかしくなったと思われるだろう。

舞花の本来のキャラクターがわからないのと、この女性との関係もわからないため、返答を躊躇っていると、

「気分、悪い?」

と再度問いかけられ、私は慌てて首を横に振った。